工学研究院長・工学院長からのメッセージ

■多元的な社会課題を解くための知の融合

 私たちは、国内では人口減少と少子高齢化による地域の衰退や担い手不足などの問題、世界的には人口急増による食料と資源の枯渇や地球環境の問題など、多元的な社会課題に直面しています。これらの課題に対しては一元的な思考や技術ではなく、様々な知を結集させて包括的に解決策を見出す必要があります。そのためには、内在する多様な知を融合させて多元的な課題を解きほぐし、大学が社会のあるべき姿や社会システムを示さなければなりません。なかでも、多元的な課題を解いて事物を創造する工学の思考が、現代社会において求められます。

■北海道大学大学院工学研究院・工学院

 北海道大学工学部は1924年に、農学部、医学部に次ぐ本学3番目の学部として創設され、今年で95年を迎えます。本学の建学の精神に基づき、「人類の生活をより快適に、より豊かにすることを使命として取り組まれるべき学問としての工学を通じて社会に貢献すること」を基本理念としています。大学院工学研究院と工学院は、大学院工学研究科を前身とし、工学を取り巻く社会からの様々な要請に応える高度な研究者や専門技術者を育成・輩出するために、研究組織である工学研究院と教育組織となる工学院に、2010年に改組設立されました。工学研究院は、知の拠点としてイノベーションを創出し、国際化、科学技術の高度化、 学際化等に対応した工学分野の基礎研究及び応用研究を行うことを目的とし、工学院は、学問の継承及び創造を通じて、工学分野の基礎的素養及び高度な専門的素養を身に付けた、 国際化、科学技術の高度化、学際化等に対応できる多様な知識、判断力および実務対応能力を持つ人材の育成を目的としています。

■多様な知を融合する教育研究拠点の形成

 大学院の研究組織となる工学研究院は、13部門と4つの研究センター、共同利用研究施設の、多様な研究領域で構成されています。工学研究院内外の複数の研究機関が連携し、本学が強みとする、医療・創薬科学分野、食・健康科学分野、物質・材料科学分野、フィールド科学分野、寒冷地域環境分野等の重点領域研究に対して、工学研究院は中心的な役割を担い「多様な知の融合」を積極的に進めています。北海道大学機能強化経費事業として「ロバスト農林水産工学国際連携教育研究拠点」および「資源・環境国際連携教育研究拠点」を推進しており、様々な研究領域を横断的に融合し、産官学が連携し社会実装を推進する教育研究拠点を形成しています。さらに、宇宙・航空・船舶工学や極限環境インフラに関する国際連携教育研究拠点の形成へと動きを拡げています。これらの教育研究拠点では、異分野の研究者や産業界、官界のステークホルダーが、共通の目標を掲げて議論や実践研究を重ね、様々なイノベーションの機会を創造しています。

 さらに、ノーベル化学賞を受賞した鈴木章工学部名誉教授による研究成果の流れを受けて、平成30年度文部科学省国際研究拠点形成促進事業費補助金「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に、北海道大学は「化学反応創成研究拠点」として採択され、工学研究院も中心的な役割を担っています。

■多様な知を修得する双峰型教育

 大学院の教育組織である工学院は13専攻を有し、多様な知を修得するために様々な先進的な取り組みを進めています。科学技術の多様化や、異なる領域の融合による新たな学問の創造に柔軟に対応できる研究者や技術者を育成すべく、早くから双峰型教育を実践しています。双峰型教育とは、学生が所属する専攻の専門科目を主専修として履修するとともに、他専攻の科目も副専修として履修することにより、複数の視点から物事を観察・分析できる幅広い素養と柔軟な思考力を身に付け、急速に進展する先端工学領域にも対応できる人材を育成する教育システムです。

 また、工学系教育研究センター(CEED:Center for Engineering Education Development)では、産業界から求められている実践能力を有する人材育成のために、産学連携プログラムおよび国際性啓発プログラムとして、国内インターンシップ派遣や海外インターンシップ派遣を積極的に支援しています。

■グローバルリーダーの育成

 いまや国際化があらゆる社会に浸透するなかで、工学院では単なる交流を超えて、多様な知を修得して課題解決ができるグローバルリーダーを育成しています。

 工学院の最も特徴的な国際教育として、英語による教育と研究指導を行う、英語特別コース「e3プログラム」(English Engineering Education)を2000年より進めています。すでに100を超えるバラエティーに富んだ英語の講義が開設されており、英語のみで修士および博士の学位取得が可能で、海外からの留学生を積極的に受け入れています。日本人の学生も一定の英語力があれば、世界各国の留学生と共に学ぶことができます。

 また、HSI(Hokkaido Summer Institute)やLS(Learning Satellite)では、国内外のフィールドを舞台に、北大と海外大学の学生が学び合う学修環境を創り上げています。さらに、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」では、工学院とロシアおよびインドの基幹大学との連携により、寒冷地建設技術やインフラ整備技術などをテーマに、わが国と両国で国際的に活躍できるグローバルリーダーを育成しています。

 工学院では留学プログラムも充実しており、工学院と海外の協定大学との双方から、修士号または博士号の学位を取得できる、ダブル・ディグリー・プログラムや、同じく協定大学との教員と共同で指導を受けることができる、コチュテル・プログラムを積極的に進めています。

■社会に貢献する工学研究院・工学院

 工学研究院は約300名の研究者を擁しており、基礎研究から実学研究まで異なる研究領域が連携し、特徴であるフィールドを活用した研究を実践することで、様々なイノベーションを創出しています。工学研究院から創出・発信された先進的工学研究が広く社会に還元され、工学院から輩出された優秀な工学技術者や工学研究者が、世界の持続的な発展に貢献しています。皆さんが工学研究院・工学院の多様な知に触れ、生涯の師と友人に出逢い、多くの有益な学問を修得し、広く社会に貢献する工学者になることを、切に願っています。

(2019年4月 星影冴かに光れる北の大地にて)