工学研究院長・工学院長 対談企画
出会いと日々の努力でつかむ
未来のターニングポイント
教員が籍を置く研究組織の工学研究院と学生が所属する教育組織である工学院のトップ対談。自分たちの「研究者になったターニングポイント」を織り交ぜながらこれから人生の転機が控えている皆さんにエールを送ります。
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工学院長
泉 典洋 教授1963年生まれ。1993年米国ミネソタ大学大学院博士課程修了。同年東京工業大学工学部助手、1996年東北大学工学部助教授、1999年タイ国アジア工科大学助教授、2006年北海道大学大学院工学研究科教授、2015年大学院公共政策学連携研究部教授、2017年大学院工学研究院教授。2019年工学研究院副研究院長を経て2023年4月より工学院長。
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工学研究院長
幅﨑 浩樹 教授1963年生まれ。1988年東北大学大学院理学研究科修士課程修了。同年東北大学金属材料研究所助手、2000年北海道大学大学院工学研究科助教授、2006年より教授。2015年附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター長、2019年評議員・副工学研究院長を経て2023年4月より工学研究院長・工学部長。
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■司会・進行
工学研究院 広報室長
渡部 靖憲 教授
研究者の土台を築いた英米の留学経験
司会 2023年4月から研究組織である工学研究院と教育組織である工学院の新体制が始まりました。各組織の長である幅﨑浩樹先生と泉典洋先生にターニングポイントをテーマにお話を伺ってまいります。初めにお二人とも、学生時代からどのような流れで研究職の道を歩んでこられたのでしょうか。
幅﨑 私は修士課程まで東北大学の理学部におりまして、今の専門とは異なる有機金属錯体の合成の研究をしていました。なかなか思うような成果が出せず、発表会直前まで実験をしていた記憶がありますが、その分思いがけない成果が得られたときの感動は今でも忘れられません。
泉 当時から研究職に進もうというお気持ちはあったんですか?
幅﨑 自分にはその力量がないと思っていましたが、教授のお口添えもあり、東北大学金属材料研究所の助手の職を得ました。その後、論文博士制度で博士号の学位を取得しています。確か、泉先生も東北大学とご縁がありましたよね。私はイギリスのマンチェスター理工科大学、泉先生はアメリカのミネソタ大学と留学経験があるところも共通しています。
泉 ええ、私は東京大学工学部の土木工学科を卒業したあと、ミネソタ大学の大学院に進学しました。動機は実はちょっと不純で、当時流行っていた映画や海外ドラマに憧れて、自分も一度はアメリカ暮らしがしたかった、その一念でした(笑)。あちらでは、博士学位の試験に数回失敗すると放校になるというプレッシャーもあり、必死に勉強した思い出があります。帰国後は東京工業大学を経て東北大学に籍を置き、2006年から北海道大学に来て現在に至ります。ミネソタ時代のことは、今もたまに夢に見ることがあります。ハードでしたが、とても充実した日々でした。
幅﨑 私もマンチェスターで過ごした2年間のポスドク生活が、人生の中で一番楽しかった時代のように感じます。研究テーマはアモルファス金属の腐食へと移りましたが、ヨーロッパは基礎研究をすごく大切にする文化があり、そこを吸収できた経験が帰国後、北大に来てからの研究の土台になっています。
まなざしを外に開いて世界の一流と出会う
司会 「自分も海外に行きたい!」という元気な声が今後増えていってほしいですね。
幅﨑 全く同感です。海外ではありませんが、私が勤めていた金属材料研究所は全国共同利用施設ですので、全国からいろんな先生が利用に来ていました。そこでさまざまな最先端の研究に触れると同時に、学外の先生たちとも貴重な人脈を作ることができました。私がイギリスに留学できたのも、北大に着任したのも、そのご縁があればこそです。ターニングポイントという意味でも、人とのつながりは大事だと実感しています。
泉 日本や大学の外に目を向けて、世界の最先端や一流と言われる人たちと会う経験は、若いうちにぜひとも体験してもらいたいことの一つです。「こんなにすごい人たちがいるんだ!」という心が震えるような感動が刺激になり、自分も頑張ろうという気持ちを奮い立たせてくれます。
幅﨑 学内にいながらにして世界最先端の研究者たちの授業を受けられる機会として、私は北大が全学を対象にしているHokkaidoサマー・インスティテュートをお勧めします。工学の科目も増えており、国内でここでしか聞くことができない貴重な講義を選択できます。
司会 研究職に関心がある学生にとっては、将来のキャリアプランも重要な関心事です。
幅﨑 教員の定員削減や任期期間などを理由に研究職の道に進むことをためらってしまう、という話はよく耳にしますが、実は今、工学研究院の若手研究者たちが非常に優秀な成果を次々と発表しています。北大のアンビシャステニュアトラック制度は、意欲ある30代の若手が採用されると、5年後の審査を経て教授の道が開かれるという若手育成・獲得を目的としたもの。工学研究院からは、既に12名ものアンビシャステニュアトラック准教授を輩出しています。今年4年目となる工学研究院若手教員奨励賞でもその実力や成果を表彰しており、こうした若手の目覚ましい活躍が後輩たちの身近なロールモデルになればと期待しています。
オープンマインドで花開く多彩な連携・協働研究
司会 北海道大学に着任された当時の驚きや発見を教えていただけますか。
泉 まず北海道全体の印象が非常にオープンですよね。このフランクな空気感はアメリカに近いと感じました。そして北大の大きな特徴と言えば、やはりこのキャンパスです。大抵の大学は学科ごとに建物が異なり、同じ工学でも化学と土木が別々の建物に入っていたりするんですが、北大は「工学」の名のもと、皆が一つ屋根の下に集まっている。このことが物理的な距離以上に、精神的な結びつきを強くしているように感じます。
幅﨑 確かに、同じ札幌キャンパス内にあることで農学部と工学部が協働する農工連携も盛んですし、私自身も博士課程教育リーディングプログラムで普段は接点のない数学科の先生と一緒にプログラムの運営に関わったことがあります。理学と工学が融合した総合化学院や計算科学・情報科学・実験科学の3分野が融合した化学反応創成研究拠点(ICReDD/アイクレッド)が実現したのも、北大の部局間・研究室間の垣根の低さが前提にあったからだと感じています。この北大ならではの強みをもっと伸ばしていきたいですね。
泉 おっしゃる通りです。加えて、もう一つの強みは卒業生の方々が抱いている「北大愛」の大きさです。今はさまざまな企業やお立場で活躍されている方々が皆さん、口を揃えて「北大時代は最高に楽しかった。今の北大のために何かしたい」と考えておられることに、いつも感銘を受けています。その思いを産学連携などに結びつけることができたら、きっとまた北大らしいフロンティアスピリット溢れる展開が始まる予感がします。
人との出会いを大切に Be ambitious
司会 最後に学生にエールをお願いします。
泉 工学は時代や社会とともに変わっていくもの。その中で自分が生涯打ち込めるテーマを見つけることができたら、これ以上幸せなことはないですよね。ターニングポイントの視点で言うと、一つの大きな転機が訪れるというよりは、日々の出会いや努力が積み重なって後々それがターニングポイントになっていた、ということもあります。まずは、しっかりと目の前のことに打ち込むこと。とりわけ、人との出会いはかけがえのない財産になります。人脈を大切にしてください。
幅﨑 私が声を大にして伝えたいことは、「失敗を恐れないで」。若いときは失敗をするのが当たり前ですし、失敗こそ成長のチャンスです。“Be ambitious”の気持ちで、いろんなことにチャレンジしてください。日々努力を続けていれば、見てくれる人は必ずいます。ノーベル化学賞を受賞された鈴木章名誉教授の研究も初期の頃は日の目を見ませんでしたが、徐々に周囲の評価が追いついて、ノーベル化学賞受賞という大きなターニングポイントを迎えました。あなたの毎日が未来のターニングポイントにつながっている。そう信じて頑張ってください。
司会 本日はありがとうございました。