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基盤技術と超高サイクル疲労

中村 孝  教授

解明のときを待つ金属疲労の真実を明らかに。機械の高速・長寿命化を支える礎を築いて。

機械宇宙工学専攻 
材料機能工学研究室
教授

中村 孝 Takashi Nakamura
[PROFILE]
◎研究分野/機械材料学、材料強度学 
◎研究テーマ/高分子材料の宇宙環境強度、高強度材料の超高サイクル疲労破壊機構
◎研究室ホームページ/http://mech-me.eng.hokudai.ac.jp/~material/

107回の先に広がる
超高サイクル疲労の謎

 「事故原因は金属疲労」というニュースを耳にされたことがあると思います。金属疲労の研究には200年の歴史がありますが、最近、「超高サイクル疲労」と呼ばれる新しい特異な現象が認識されるようになりました。超高サイクル疲労とは、材料に107を超える多数回(超高サイクル)の繰返し荷重を加えたときに、初めて現れる破壊現象です。従、107回の繰返し荷重に耐えた材料は、それ以上の負荷を与えても壊れないとされてきましたが、近年、ある種の高強度材料は、107を超える領域でも疲労破壊を起こすことがわかってきました。さらに、疲労亀裂は材料の表面に発生することが常識でしたが、厄介なことに超高サイクル疲労では、材料の内部に発生した亀裂の進展によって破壊が生じます。目視による亀裂の発見は不可能であり、そのメカニズムはほとんどわかっていません。また、一般の疲労試験機の繰返し速度は50Hz程度のため、109回のデータを得るには連続運転で230日を要するなど、膨大な時間がかかることも深刻な問題です。

高精度高速サーボ疲労試験機
図1 高精度高速サーボ疲労試験機

新たな試験機開発から
未知なる現象の探求に挑戦

 超高サイクル疲労の解明のため、我々は学生とともに新たに2つの試験機を開発しました。そのひとつが高速サーボ疲労試験機です(図1)。高い荷重精度を維持しながら、300Hz以上の試験速度を達成し、109回のデータ取得が40日弱で可能になりました。もうひとつは超高真空疲労試験機です(図2)。「材料内部に発生する亀裂は、進展過程で大気の影響をほとんど受けないのでは?」という考えに基づき、真空環境で亀裂の発生進展機構を模擬する研究を進めています。図3はチタン合金の疲労破面の電子顕微鏡写真です。内部起点型亀裂の破面は表面起点型亀裂の破面と異なりますが、真空中の疲労破面に極めて良く似ています。また、真空中では大気中に比べて破壊に至る繰返し数が大幅に多くなり、超高サイクル疲労との類似性が見られます。
 機械に対する高速化や長寿命化への要求は年々過酷になっています。また、高度経済成長期に建設された機械構造物を当時の設計寿命を越えて維持管理することも強く求められています。我々は、超高サイクル疲労の解明を、基盤技術を支えるテーマととらえ、この問題に取り組んでいます。

超高真空疲労試験機
図2 超高真空疲労試験機(到達圧力:10-7 Pa)

Ti-6Al-4V合金の疲労破面
図3 Ti-6Al-4V合金の疲労破面

technical term
金属疲労 荷重が繰り返し加わることで材料に亀裂が発生し、それが進展して破壊に至る現象。