私たち人類は、厳しい氷河期も含め、生きるために技術を発展させ、生活環境のリスクを低減してきました。 しかし、20世紀後半に至って、豊富な石油資源を前提に快適さを最優先するエネルギー多消費型の社会システムを競って築き上げたことによって、地球温暖化(気候変動)という大きなリスクを作り出してしまいました。21世紀の基盤技術はこのリスクを克服しなければなりません。また、リスク解決に大きく貢献する技術自体のリスクは、交通事故などの生活環境で生じるリスクに比べて十分小さくなければなりません。まさに日本の技術力の真価が問われています。本特集では、リスクの観点から21世紀の基盤技術にかかわる工学研究科の研究開発の取り組みを紹介します。
〉〉北海道発・低炭素社会の実現に向けて
北海道洞爺湖サミットの新聞・テレビ報道を皆さんはどう受け取られましたか? 「低炭素社会の実現を目指して、石油文明と言われた20世紀の社会システムを再構築する」という大変難しい課題に世界が取り組まなければならないと感じた方が多いと思います。
この取り組みに消極的に見える米国では、二酸化炭素の放出量削減のため現在運転している104基の原子力発電所の60年運転を目指し、既に規制当局によるリスクの再評価が行われています。また、原子力発電で世界一の累積稼動率(約90%)を誇るフィンランドでは、リスク評価を終えてヨーロッパの最新原子力発電所の建設と廃棄物の最終処分場の建設をスタートさせています。
〉〉気候変動リスク回避への世界の取り組み
イギリスでは、温暖化による海面上昇と異常気象によるブリザードの相乗効果による洪水からロンドン市を守るため、テムズ川河口の可動式堤防のかさ上げが議論されています。また、国土の1/4が海面下でイギリスより大きなリスクを抱えるオランダや、既に超大型のハリケーンに襲われ莫大な損失を被ったニューオリンズ市では、信頼性の高い長寿命堤防システムの構築が真剣に議論されています。
このような長期利用を目指す高信頼度の基盤技術では、疲労・劣化に起因する構造物・材料のリスク評価が重要な研究テーマになってきます。また、日本では地震のリスクも考慮しなければなりません。
(コーディネーター 杉山 憲一郎)
- 将来型原子力発電プラントのリスク評価
エネルギー環境システム専攻
原子力安全工学研究室
教授 杉山 憲一郎 - コンクリート構造物の劣化と疲労
環境創生工学専攻
維持管理システム工学研究室
教授 上田 多門 - 基盤技術と超高サイクル疲労
機械宇宙工学専攻
材料機能工学研究室
教授 中村 孝
- 10万年後の地球環境のために
エネルギー環境システム専攻
原子力環境材料学研究室
准教授 小崎 完 - 免震構造による防災対策と地震リスクの低減
建築都市空間デザイン専攻
空間構造環境学研究室
准教授 菊地 優