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将来型原子力発電プラントのリスク評価

杉山教授

人類に委ねられた原子力エネルギー。過去に学び、未来に寄与するプラントの実現を目指して。

エネルギー環境システム専攻
原子力安全工学研究室 
教授

杉山 憲一郎 Ken-ichiro Sugiyama
[PROFILE]
◎研究分野/原子力安全工学 
◎研究テーマ/高速増殖炉および軽水炉プラントの安全性
◎研究室ホームページ/http://nms.qe.eng.hokudai.ac.jp/nuclear_safety/

君が利用する飛行機は100%安全か
リスクデータが語る真実に着目しよう

 現在、30%以上の電力を供給し、CO2削減に貢献している軽水冷却型原子力発電プラント(熱中性子炉プラント)は、核分裂性ウラン235(天然ウランの0.7%)のみを濃縮して 燃料としています。このプラントの潜在的なリスクを米国人の喫煙、自動車事故などのリスクと比較したものが表1です。米国原子力規制委員会(NRC)が確率論的リスク評価手法で求めた値です。米国の全ベースロード電力をこのプラントで発電した場合のリスクは、全米の航空機墜落事故のリスクに比べて1桁以上小さく、社会的に受け入れられるリスクと言えます。
 しかし、世界の1/3の人口を有する中国やインドなどの原子力プラント建設計画が順調に進むと、ウラン235自体の獲得が大きなリスクになります。

行為または状態 日数 行為または状態 日数
貧困 3,500 自動車事故 180
喫煙(男性 1箱/日) 2,300 大気汚染 80
炭鉱労働者 1,100 コーヒー:毎日2カップ半 26
15kgの体重超過 900 航空機墜落事故 1
ベトナム戦争兵役 400 全ベースロード電力を
原子力で発電(NRC)
0.04
アルコール(飲酒) 230

表1さまざまなリスクによる寿命短縮日数(米国の例・分かりやすい寿命短縮日数で表示)
出典:B.L.Cohen『私はなぜ原子力を選択するか-21世紀への最良の選択』近藤駿介監訳、ERC出版(1994)

加速する資源ナショナリズムを視野に
将来型プラントの完成を目指す

 私の現在の研究テーマは、図1に示す増殖タイプの液体ナトリウム冷却型原子力発電プラント(高速中性子炉プラント)のリスクにかかわる現象の解明です。既存プラント以下のリスクを目標に、天然ウランの99.3%を占める非核分裂性ウラン238を核分裂性のプルトニウム239に変換し、発電で消費した以上の燃料を作り出す将来プラントの完成を目指しています。具体的には、(独)日本原子力研究開発機構や(財)電力中央研究所と協力し、炉心における溶融燃料-ナトリウム相互作用、蒸気発生器におけるナトリウム-水反応、ナトリウム漏洩におけるナトリウム燃焼など、リスク評価にかかわる現象を実験により解明しています。図2は、ナノ粒子を分散したナトリウム滴と大気中の燃焼状態を観察した例です。ナノ粒子により燃焼を抑制し、プラントの安全裕度を向上させることが目的です。
 この先、価格上昇に加え各国の資源ナショナリズムが一層加速し、原油をはじめとする資源の確保自体が困難になっていきます。非核分裂性ウラン238を燃料に変換でき、かつ長寿命放射性物質を消滅できる将来型プラントの完成を急ぐ理由がここにあります。もちろん、灯油に代わる暖房熱源として原子力地域熱供給も視野に入れています。

ナトリウム冷却アドバンスループ型炉
図1 ナトリウム冷却アドバンスループ型炉
出典:『サイクル機構技報』No.12別冊(2001)より改変

ナノ粒子分散ナトリウム滴の燃焼
図2 ナノ粒子分散ナトリウム滴の燃焼
(左)ナトリウム燃焼前 (右)ナトリウム燃焼中

technical term
資源ナショナリズム 資源産出国による自国の天然資源に対する主権確立の思想と運動。多国籍企業や先進工業国による資源の乱掘、利益独占などの経済的支配に対立したもの。