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免震構造による防災対策と地震リスクの低減

上田 多門 教授

崩れ落ちた被災地の悲劇を繰り返さないために。免震構造のさらなる普及で地震リスクの低い安全社会へ。

建築都市空間デザイン専攻
空間構造環境学研究室
准教授 

菊地 優 Masaru Kikuchi
[PROFILE]
◎研究分野/構造力学、耐震構造、地震工学 
◎研究テーマ/免震・制振構造を用いた建物の振動制御
◎研究室ホームページ/http://spae-sg.eng.hokudai.ac.jp/9kou/

地震列島・日本の早急課題
建物をゴムが支える免震構造

 日本列島は世界的に地震の多い地域の中にあり、最近は毎年のように建物が倒壊するような大きな被害を伴う地震が日本各地で発生しています。残念ながら科学技術がどんなに進歩しても、地震の発生を抑えることはできません。私たちにできることは、確実に防災対策を行い地震に備えることです。
 地震に対する建物の備えの一つが免震構造です。免震構造は建物の下部に積層ゴムと呼ばれる特殊なゴムを設置して、地震の揺れを建物へ伝えないようにする技術です(図1)。積層ゴムは重い建物を支えながら、水平方向へ何十センチも変形できます。従来の建物では地盤の揺れが建物の中へ直接伝わり激しく揺れますが、積層ゴムに支えられた建物は洋上の船のようにゆっくりと動き、建物の中にいる人が激しい揺れを感じることはありません。

免震構造
図1 免震構造 ※イラスト提供:オイレス工業株式会社
柔らかいゴムシートと薄い鋼板を何層にも重ね合わせると、上下方向には硬く水平方向には非常に柔らかい特性を発揮させることができる。

地震リスク低減の切り札
損して得とれ

 地震防災対策では、建物自体の倒壊防止だけではなく、建物の中にあるものが壊れない工夫をすることも重要です。たとえば、地震のとき病院内の医療機器が壊れてしまうと、地震後の復旧活動に大きな障害が生じます。免震構造は建物内の加速度を通常の建物の約1/5にまで低減し、建物と収容物を同時に守ることができます。
 免震構造を採用すると建設コストは数%高くなります。しかし、地震発生時の被害額を試算すると、社会全体では国家予算に匹敵することもあります。免震構造を採用すると、少しの先行投資で被害額を最小にできるのです(図2)。
 免震構造は重要な建物に優先して採用されてきました。建替えのできない貴重な文化遺産を後世に伝えるため、歴史的建造物の免震レトロフィットも行われています(図3)。それでも、日本全体の建築棟数から見れば、免震構造の適用件数は微々たるものです。私たちは、効率的で簡便な免震構造の設計方法や、免震建物の動きを高精度に予測する技術の研究開発を行っています。免震構造を一層普及させることにより、地震リスクの低い安全な社会を作っていきたいと考えています。

建物のコスト比較
図2 建物のコスト比較

免震化された重要文化財
図3 免震化された重要文化財(大阪市中央公会堂)

technical term
免震レトロフィット 既存建物の下部に積層ゴムを挿入して免震化することで、耐震性能を向上させる方法。地上部分を改変する必要がなく、建築のデザインを維持できる。