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コンクリート構造物の劣化と疲労

上田 多門 教授

道路、橋、建物…街並みを形作るコンクリート。優れた耐久性と経済的な補修で構造物の理想を、現実に。

環境創生工学専攻
維持管理システム工学研究室
教授

上田 多門 Tamotsu Kozaki
[PROFILE]
◎研究分野/複合構造学、コンクリート構造学、構造物性能予測、維持管理工学
◎研究テーマ/複合構造・コンクリート構造の劣化した材料の構成則と構造性能の経時変化予測、複合構造・補強構造の力学的挙動の解明と合理的設計法の開発、構造性能に最適な材料の力学特性の解明、リサイクル材料の構成則とそれを使用した構造物の性能予測
◎研究室ホームページ/http://www.infra.eng.hokudai.ac.jp/~maintenance/

コンクリートは劣化しない?
原因は凍害、塩害と疲労

 コンクリートは、自然岩のようにほとんど劣化しないと考えていませんか? コンクリートも、環境次第では人の寿命よりも速く目に見えて劣化が起こります。そのひとつは、凍害と呼ばれる寒冷地独特のもので、温度が氷点下と氷点以上を繰り返し行き来し、コンクリートが湿った環境にあるときに、その表面からぼろぼろになっていく現象です(図1)。氷点下の温度が保たれる極地では起こりませんが、日中晴れると雪が融ける札幌の冬は凍害の好条件が揃っています。もっと一般的な劣化が塩害と呼ばれるものです。海水などから塩化物イオンがコンクリートに侵入し、内部の鉄筋が錆びることによって膨張し、周囲のコンクリートにひび割れが発生します。力が繰り返し作用すると材料は疲労します。こうした疲労がもっとも苛酷に生じるのが、道路橋のコンクリート床版で、最悪の場合、穴があきます。特に、床版表面が水で濡れた状態になると劣化が速く起こります。

コンクリート製橋脚の凍害
図1 コンクリート製橋脚の凍害
   (提供:(独)土木研究所寒地土木研究所)

劣化の予防から予測まで
構造物の“人生設計”を描く

 劣化の予防は、原因となる物質(凍害は水、塩害は塩化物イオン)の侵入を防ぐことです。セメントを多く使いコンクリートを緻密にする、コンクリート表面を緻密な材料で保護する、などの方法があります。意外にも、コンクリート内に意図的に微小な空隙を生じさせ、水が凍結して膨張したときの周囲のコンクリートを押し広げる圧力を和らげる方法も一般的に行われています。疲労に対しては、構造物の耐荷力をより大きくして、疲労による劣化が生じても壊れないようにします。
 この劣化に対して現在行われている研究は、劣化の予測(図2)と経済的な補修法の開発です。コンクリート構造物は既に大量に存在していますので、劣化が起こるとその補修費用が膨大になります。劣化がいつ起こるのかを予測することにより、将来必要な補修費用を適切に準備することが重要です。また、経済的な補修法は補修費の抑制に不可欠です。新たな材料を開発したり、たとえ高価でも劣化しにくい材料を使い、結果としてライフサイクルコストを小さくする方法もあります。

疲労荷重下の劣化(ひび割れの進展)と応力分布の予測
図2 疲労荷重下の劣化(ひび割れの進展)と応力分布の予測
(松本浩嗣氏の博士論文研究から)

technical term
ライフサイクルコスト 構造物の費用を製造・使用・廃棄のサイクルを通してトータルに考えたもの。