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10万年後の地球環境のために

小崎准教授

10万年後の子孫に想いを馳せ自身に問いかける大きな使命。確実かつ安全な放射性廃棄物の処分技術で未来の地球を守る。

エネルギー環境システム専攻
原子力環境材料学研究室
准教授

小崎 完 Tamotsu Kozaki
[PROFILE]
◎研究分野/放射性廃棄物処理処分、原子力材料学 
◎研究テーマ/放射性廃棄物の地層処分における粘土緩衝材中の放射性核種の移行挙動 
◎研究室ホームページ/http://nms.qe.eng.hokudai.ac.jp/

地球温暖化防止の鍵を握る
原子力の環境リスクを低減する

 現在、我々人類は地球温暖化という大きなリスクに直面しています。このリスクを回避する唯一の切り札として、炭酸ガスを放出することなく大量のエネルギーを安定に供給できる原子力の重要性が世界各国で再認識されています。その一方で、原子力の利用は放射性廃棄物の発生を伴うため、これらを適切に処理・処分しなければ、新たな環境リスクをもたらす恐れがあります。
 私たちは、超長期間にわたって地球環境を守るため、放射性廃棄物を確実に安全に処分する技術を研究しています。例えば、高レベル放射性廃棄物は、発生量はごくわずかですが、放射能が極めて高いことからガラス状にして炭素鋼製の容器に密封し、地下数百m以深の安定な岩盤中に圧縮した粘土(ベントナイト)に取り囲まれた状態にして埋設することとなっています(図1)。この地層処分システムは、少なくとも数万年以上の超長期にわたって安全性を確保する設計にしなくてはなりません。

高レベル放射性廃棄物の地層処分システムとX線マイクロCT法による粘土の内部微細構造像
図1 高レベル放射性廃棄物の地層処分システムとX線マイクロCT法による粘土の内部微細構造像
(外側のグレーのリングは試料ホルダー)

21世紀の研究者の使命を胸に
はるか未来のリスクを予測する

 そこで、私たちが現在最も着目しているのは、粘土が持つバリアとしての機能です。放射性廃棄物の周りに設置する粘土の厚さや圧縮度合いなどを最適なものに決定するためには、超長期間の予測を精度良くしなくてはなりません。しかし、これを数万年以上の時間をかけた実験で検証することはできません。そこで私たちは、X線マイクロビームを用いた観察や極微量分析、放射性トレーサーを駆使した実験(図2)によって粘土中の物質のわずかな動きをとらえ、放射性物質の移行の基本メカニズムを求める努力をしています。例えば放射性トレーサーを用いた実験からは、地下水で飽和した粘土の中に3種類の放射性物質の通り道があること、それらの通りやすさは粘土の圧縮度合いや温度によって変化することなどを明らかにしました。
 地球温暖化の問題はこの先100年間が大きな山場ですが、私たちはさらにその先の未来の地球環境を守ることを考えています。1万年後あるいは10万年後の私たちの子孫を想いつつ、彼らに迷惑をかけないことを大前提に、研究者として恥ずかしくないゴミ(放射性廃棄物)の処分技術を確立すること、それが大きな使命です。

粘土中の放射性物質の拡散実験セル
図2 粘土中の放射性物質の拡散実験セル
(In-diffusion法用のセル、アクリルの中に見える円筒状の灰色の試料がベントナイト)

technical term
ベントナイト ケイ酸塩鉱物・モンモリロナイトを主成分とする粘土。吸着性、吸水性が高く、水を吸うと体積が大きく膨張する。土木工事から化粧品原料やペット用トイレ砂等幅広く活用されている。