特集04

賢い「竹」が私たちに教えてくれること
Learning from wise "bamboo"

地球上のさまざまな植物が最適な構造物設計のヒントになる 北方圏環境政策工学部門 構造システム研究室 准教授 佐藤 太裕

[PROFILE]
○研究分野/構造力学、応用力学
○研究テーマ/先端科学技術の導入による新しい構造システム・構造設計概念の研究、構造安定論に基づく物体に生じる特異な幾何形状に関する理論的研究
○研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/ssystem/

Motohiro Sato : Associate Professor
Laboratory of Structural Mechanics and System
Division of Engineering and Policy for Sustainable Environment
○Research field : Structural mechanics, Applied mechanics
○Research theme : Research on new structural system design concept using advanced science and technology, Theoretical study on novel geometric shape in structural body based on structural stability theory
○Laboratory HP : http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/ssystem/

構造力学の視点で明らかにする
天然の機能材料「竹」の秘密

図1
図1 竹の節配置の様子
Figure1:Node distribution of bamboo.

構造力学とは、構造物にかかる力とそれによる変形を考え、実際の設計に活かす学問です。植物と構造力学は一見無関係に思われますが、実は構造力学的視点で植物を見てみると、合理的な構造物設計のヒントが幾つも発見できます。その代表例が「竹」です。

竹は、軽さと丈夫さを併せ持つ「天然の機能材料」と言われています。軽さの理由は空洞です。空洞があるおかげで素早く成長し、周囲の樹木よりも高い位置で多くの光を浴びることができます。ただし、軽いだけでは竹は横風による力や自重に耐えきれず、折れてしまうリスクが生じます。竹はこの弱点を、節と木質部にある維管束鞘(いかんそくしょう:細くて丈夫な繊維)の巧妙な配置で補っています。

節の配置をよく見ると、根元と先端付近では狭く、中間付近で広くなっていることがわかります(図1)。他方、断面の維管束鞘の配置を見ると、外側にいくほど密集し(図2)、根元と先端付近ではさらに分布の様子が異なります。これらの不思議な分布かつ巧妙な仕掛けにより、竹は軽さと丈夫さに加えて、外部からの影響に対して「最も曲がりにくい」性質を獲得し、他の樹木との生存競争を有利に進めていることが明らかになりました。山梨大学、熊本県立大学との共同研究によるこの発見は非常に興味深く、科学雑誌Newtonをはじめ国内外の複数のメディアに取り上げられました。

進化の過程で得た植物の形態を
ものづくりに活かす智恵

竹のように軽さと丈夫さを兼ね備えた先進素材の需要は高く、省エネルギー社会を担う次世代技術の基盤素材として長く注目を集めてきました。現在では、ガラス繊維や炭素繊維を埋め込んだ多種の繊維強化複合材料が、航空機や宇宙ロケットなどの基盤部材、風力発電用のブレードなど、様々な場面で活躍しています。

ここで注目されるのが、生物形態模倣技術です。厳しい環境下における進化の過程で生物が獲得した合理的な仕組みを模倣して、人々の生活に役立つ技術を開発するという考え方です。私たちの研究グループも、今回の研究で竹が教えてくれた力学的高機能性を巧みに模倣し、バイオマス由来の新しい先進材料開発へとつなげていきたいと考えています。

図2
図2 竹断面の様子:維管束鞘が木質部の厚さ方向に不均一に分布している。
Figure2:Cross section of bamboo. The gradient distribution of the vascular bundles across the wall thickness is clearly observed.
※図1、図2の写真は共同研究者の熊本県立大学・井上昭夫教授撮影
technical term
生物形態模倣技術 バイオミメティクス。ハスの葉の撥水効果やサメ肌の流体抵抗の低減効果などをヒントにした材料開発が実用化されている。