特集01

糖をつないでナノサイズのセルロースを作る
Production of nano-sized cellulose via polymerization of sugars

原材料、技術、製品化プロジェクト すべてが揃った《オール北海道》の研究です 応用化学部門 高分子化学研究室 准教授 田島 健次

[PROFILE]
○研究分野/遺伝子工学、分子生物学、高分子化学
○研究テーマ/バイオポリマーの合成機構解明と環境循環型機能性高分子材料の開発
○研究室ホームページ/http://poly-bm.eng.hokudai.ac.jp/mol/

Kenji Tajima : Associate Professor
Laboratory of Polymer Chemistry
Division of Applied Chemistry
○Research field : Genetic engineering, Molecular biology, Polymer chemistry
○Research theme : Elucidation of synthetic mechanisms of biopolymers and development of environmentally circulating functional polymeric materials
○Laboratory HP : http://poly-bm.eng.hokudai.ac.jp/mol/

ビートから生成するビート糖蜜は
北海道独自のバイオマス資源

北海道では様々な農作物が栽培されていますが、その中でも甜菜(ビート)は北海道だけで栽培されています。ビートはヒユ科アカザ亜科フダンソウ属の多年草で、年間の収穫量は約400万トンです。ビートの根部には約15%の砂糖(スクロース)が蓄積されており、年間約70万トンの砂糖が生産されています。

砂糖はビート根部から以下のような工程で製造されます:裁断⇒抽出⇒不純物除去⇒ろ過⇒濃縮・結晶化⇒分離⇒乾燥⇒包装。この製造工程で、副生成物としてビートパルプ、水溶性非糖成分、糖蜜などが生成され、そのうち、糖蜜には60%程度の濃度でまだ砂糖が含まれています。

この糖蜜は、食品添加物や微生物培養用の糖源として広く利用されており、現在の製糖工程ではビート重量の約0.5%が糖蜜になるといわれています。単純計算すると年間約2万トンの糖蜜が生成されることになります。

図1 図1 大型発酵培養槽 Figure1:A large sized fermentor.

果物から採取した酢酸菌で
発酵ナノセルロースの合成に成功

我々の研究室では、バクテリアを使って北海道に豊富に存在するバイオマスを機能性高分子材料に変換する研究を企業と共同で行っています。現在重点を置いて研究を行っているのがセルロースで、酢酸菌というバクテリアを使って効率的にセルロース(発酵ナノセルロース)を合成する新しい技術の開発に成功しました。

セルロース合成に使用しているバクテリアは、北海道余市産のフルーツから採取したもので、砂糖や糖蜜を原料として効率的にセルロースを合成することができます。発酵培養槽を用い、通気・撹拌しながら培養することで(図1)、直径約20nmのナノサイズのセルロース(図2:発酵ナノセルロース)の大量合成が可能です。

この発酵ナノセルロースは北海道のバイオマス(砂糖・糖蜜)を原料に、北海道産のバクテリアと北海道の技術を使って作る安全・安心な材料であり、北海道発の食品・化粧品・医薬品原料として世の中に広めていけるよう製品化を進めています。

図2 図2 発酵ナノセルロース(直径20nmの極細セルロース) Figure2:Twenty nanometer superfine cellulose (fermented nano-cellulose).
technical term
セルロース 植物細胞の細胞壁・植物繊維の主成分をなす多糖類。主に植物によって合成されるが、酢酸菌などのある種のバクテリアによっても合成される(例:ナタデココ)。