特集02

キノコによる植物バイオマスの分解
Biodegradation of plant biomass by wood decay fungi

大学の最先端研究から見えてくる私たちが知らないキノコのはたらき 応用化学部門 バイオ分子工学研究室 助教 堀 千明

[PROFILE]
○研究分野/分子生物学
○研究テーマ/キノコ(木材腐朽菌)による植物バイオマス利用の研究
○研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/seika/

Chiaki Hori : Assistant Professor
Laboratory of Biomolecular Engineering
Division of Applied Chemistry
○Research field : Molecular biology
○Research theme : A study on bioconversion of plant biomass by wood decay fungi
○Laboratory HP : http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/seika/

食卓に上がるキノコの正体は
植物バイオマス利用の達人!

食材としておなじみのキノコは、実は担子菌という糸状の微生物が繁殖する際に作られる子実体の部分のことを指しています。キノコというと木にくっついているところを思い浮かべますが(図1)、これはキノコが木を分解して栄養源を得られるということを意味しています。植物はとても分解しにくいため、生物の中でもキノコのように植物を分解・利用できることは稀な能力です。

今、植物バイオマスからバイオエタノールやバイオポリマーを製造することが期待されています。しかし、植物から微生物が利用できるグルコース等の糖にまで分解する段階は非常に難しいとされています。そこで、前述したキノコの分解能力を明らかにすることで、植物バイオマスの分解利用に応用できるのではないのかと考えています。

図1
図1 北大キャンパス内のニセアカシアに生育するベッコウタケ(北大農学研究院 宮本敏澄講師撮影)
Figure1:Perenniporia fraxinea on the campus of Hokkaido University.

ゲノム情報を利用して
キノコによる分解メカニズムを解明

キノコのように植物を分解できる菌のグループは木材腐朽菌と呼ばれ、菌体外に様々な分解酵素を生産し、その酵素が協調的に働くことで効率的に植物成分を分解しています。しかし、その一つ一つの酵素を調べるのはとても難しく、分解メカニズムの全容は明らかにされていませんでした。ところが最近になり、ゲノム情報を利用することで木材腐朽菌がどのような酵素を使って分解しているかの全体像を明らかにすることができました。これらの酵素を利用すれば、植物の分解利用が促進される可能性があります。また、応用例として、木材腐朽菌が生産する酵素を内包する“分解しやすい植物”ができないかと考え、これらの酵素遺伝子を導入した組換え植物の創成も試みています(図2)。

さらに、複数の木材腐朽菌のゲノム情報を比較解析したところ、地球上に木材腐朽菌が出現した時期が、植物の化石である石炭の埋蔵量の激減期と一致することがわかりました。これはすなわち、木材腐朽菌が植物の全成分を分解できるように進化すると、植物が堆積しなくなったということであり、地球規模の炭素循環において非常に重要な役割を担っていたことも見えてきました。このような研究はバイオマスの産業利用という応用面だけでなく、基礎生物学的な理解にも繋がっており、やりがいを感じています。

図2
図2 キノコの酵素遺伝子を導入した組換えポプラ
Figure2:Transgenic poplar with exogenously induced enzyme from mushroom.
technical term
木材腐朽菌 木材の主要成分であるセルロース(繊維素)またはリグニン(木質素)を腐朽分解し、主な栄養源として生活する菌。