特集03

バイオマスの燃焼技術によるカーボンニュートラル社会への貢献
Liquid metal experiments elucidating physics of phenomena

宇宙技術の知恵を北海道農業に活用身の回りから始める地球温暖化対策 機械宇宙工学部門 宇宙環境応用工学研究室 教授 藤田 修

[PROFILE]
○研究分野/燃焼学
○研究テーマ/固体材料の燃焼
○研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/lsu/

Osamu Fujita : Professor
Laboratory of Space Utilization
Division of Mechanical and Space Engineering
○Research field : Combustion science
○Research theme : Solid combustion
○Laboratory HP : http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/lsu/

世界が目指す地球温暖化対策
バイオマス燃料でCO2を削減

地球温暖化ガスの抑制は喫緊の課題です。2015年11月から12月にかけて実施されたCOP21(気候変動枠組に関するパリ協定)では、産業革命前比で世界の平均気温上昇を+2℃未満に抑えることが合意され、各国でそれに向けての目標値が提示されています。この実現にむけて、我が国では2030年に2013年度比約26%の削減目標を掲げており、2050年には80%の削減が必要といわれています。すなわち、カーボンニュートラル社会を実現することが我々の急務なのです。

燃焼機器の燃料源をバイオマス由来の燃料に置き換えることができれば、排出するCO2と植物によるCO2吸収のバランスがとれ、カーボンニュートラルが実現できるはずです。そこで近年は、バイオマスを原料とする燃料の開発研究が盛んに行われています。例えば、日本全国に広く生息するイタドリ(図1)は、農業地帯では雑草としてその処理に苦労していますが、このような植物を乾燥させ細かく粉砕した後、適した温度・圧力条件下に置くと高密度のバイオマスブリケットができあがります(図2)。

図1 図1 日本全国に生息するイタドリ
Figure1:Japanese knotweed.
図2 図2 イタドリが原料の固形燃料
Figure2:Solid fuel derived from Japanese knotweed.
[1]T.Ida, et al., Patent WO2010113679 A1.

ビニールハウスを24時間温める
バイオマスブリケット燃焼技術

さてここで、北海道農業における暖房燃焼の一例をあげると、温度管理が重要なビニールハウスでは通年、重油などの化石燃料を使った暖房装置を夜通し運転しています。長い冬場や気温が低い春先になると、燃料消費量はさらに増大します。

こうした課題を解決すべく、私たちは高密度バイオマスブリケットの端面燃焼という技術を研究開発しています。もとはハイブリッドロケットのために開発された端面燃焼技術にヒントを得たもので、円筒状の燃料(直径5cm~10cm程度)の下端面に着火し、端面で継続的にゆっくりと燃焼させるものです(図3)。通常のバイオマス燃料では燃焼が一瞬で完了してしまい、ビニールハウスを夜通し温めるような用途には向きませんが、この技術でバイオマスブリケットを長くおだやかに燃焼させることができれば、農業地帯で集めた雑草を燃料化して、その場で消費するエネルギーの地産地消が可能になります。規模は小さいですが、このように身近なところからカーボンニュートラルを可能にする技術を蓄積し、地球規模のカーボンニュートラル社会の実現に貢献していきたいと考えています。

図3 図3 バイオマス固形燃料の端面燃焼技術
Figure3:End face combustion method of biomass derived solid fuel.
technical term
カーボンニュートラル ライフサイクルの中で二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロになること。