特集03

近未来の北海道の斜面災害を予測する
Prediction of Slope Failure in Near-Future Hokkaido

未来の気候変動に屈しない土木構造物設計に役立つ防災研究を 環境フィールド工学部門 地盤環境解析学研究室 教授 石川 達也

[PROFILE]
○研究分野/地盤工学
○研究テーマ/積雪寒冷地の地盤災害予測、防災対策
○研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/geomech/

Tatsuya Ishikawa : Professor
Laboratory of Analytical Geomechanics
Division of Field Engineering for the Environment
○Research field : Geotechnical engineering
○Research theme : Prediction and prevention of geotechnical hazards in snowy cold regions
○Laboratory HP : http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/geomech/

昨今の異常気象で増えてきた
雪国北海道の斜面災害

北海道は梅雨がない、台風が来ないというのが一昔前の定説でした。 しかし、2016年8月に台風10号が十勝地方に深刻な被害をもたらしたのは、記憶に新しいところです。 加えて、北海道のような積雪寒冷地では、本州などの温暖地域で発生する地盤災害と異なり、地盤の凍結や凍上現象あるいは融雪水の地盤への浸透が引き起こすと考えられる土砂災害が、融雪期の斜面で数多く発生します。 4、5年前に発生した融雪期の大雨による札幌中山峠の国道の斜面崩壊をはじめ、近年、北海道で異常気象に起因する斜面災害が増加しています。

一般に、土木構造物の防災・減災対策は、過去に計測した気象データを統計処理して災害が予測される気象条件を確率論的に定め、その気象条件に対して構造物の損傷が起きないように設計します。 ところが、昨今のような気候変動により従来のデータ範囲を超えてしまうような状況では、経験したことのない新たな地盤災害の発生が予想され、「過去」に基づくリスク評価では十分対応できないことがあります。

後手に回っている現状を打開
「先を読む」地盤災害対策へ

そこで、私たちは、年間を通して地盤の挙動を把握するため、実際の斜面に計測器を設置して地盤内の温度や水分の分布を長期計測したり(図1)、気温変化や降雨・降雪量が異なる様々な条件下で地盤の挙動を予測するために、最先端の試験装置や解析ソフトウェアを用いて地盤挙動の数値シミュレーション(図2)を行ったりしています。

図1 図1 斜面崩壊モニタリングシステム
Figure1:Slope failure monitoring system.

これにより、水と熱の流れが土の挙動に強い影響を及ぼす複雑な実現象の解明と再現を、マルチフィジックス(多相力学)および空間・時間マルチスケールの観点から目指しています。

したがって、本研究は、近年顕在化する新たな形態の地盤災害に対して対症療法的な対応に追われ、後追いの現象説明に甘んじてきた当該分野の研究の現状を打開し、今後の長期気候変動を見据えて、積雪寒冷地における地盤災害対策が予測・事前適応に転じる契機となる研究であると信じています。

図2 図2 3次元連成解析による斜面の安定性評価
Figure2:Slope stability evaluation using 3D coupled analysis.
technical term
マルチフィジックス
(多相力学)
積雪寒冷地である北海道では、水が液体や固体(氷)へと形態が変わるため、それぞれの状態での挙動を調べる必要がある。