特集01

バイオマスを余すことなく利用する
Total Utilization of Biomass Resources

化学反応に導かれてゴールを目指すバイオマス利活用研究の新分野に挑戦 応用化学部門 化学システム工学研究室 助教 吉川 琢也

[PROFILE]
○研究分野/化学工学・反応工学
○研究テーマ/未利用炭素資源の有効利用
○研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/cse/

Takuya Yoshikawa : Assistant Professor
Laboratory of Chemical System Engineering
Division of Applied Chemistry
○Research field : Chemical engineering ・ Chemical reaction engineering
○Research theme : Valorization of unused carbon resources
○Laboratory HP : http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/cse/

有機溶媒を使って
バイオマス成分を賢く分離

広大な土地が広がる北海道は、バイオマスが豊富なうえ、一次産業が盛んなため、バイオマス廃棄物が多量に排出されています。 私たちの研究室では、これからの低炭素化社会に向けて、再生可能なバイオマスの利活用につながる研究に取り組んでいます。 チップなどの木質系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されており、効果的に利用するにはそれらの成分を賢く分離する必要があります。 従来は、セルロース利用を主眼とした酸やアルカリでの処理が一般的であり、その際、強く変性を受けるリグニンはその後の用途が限られていました。 一方、比較的リグニンの変性が少ない方法として有機溶媒を用いたオルガノソルブ法が知られており、バイオマスの全量利用という観点から非常に好ましい方法だと考えられています。

私たちは、このオルガノソルブ法を応用してさまざまな有機溶媒を検討し、水と1-ブタノールを組み合わせたH2O/BuOH溶媒が、リグニンの抽出に最も適していることを見出しました。 H2O/BuOH溶媒は200℃程度まで温めても、下部のH2O相と上部のBuOH相に分かれることを確認しています(図1)。 溶媒に溶けたリグニンがBuOH相に抽出されることで、重合などの副反応を抑え、高い抽出率が得られるところが特徴です。 このH2O/BuOH溶媒処理の結果、バイオマスをBuOH相中の可溶化リグニンと水相中のヘミセルロース由来糖、未可溶分のセルロースの3つに分離することができました。

図1 図1 H2O/BuOH溶媒によるリグニン抽出 Figure1:Extraction of lignin using H2O/BuOH solvent.

分子量に応じた
可溶化リグニンの利活用

BuOH相に溶けたリグニン成分は、幅広い分子量の構成ユニットを内包しています。私たちは、それらをさらに溶剤を用いて分子量別に分画し、各成分の用途開発を検討しています。 例えば、分子量が低い単環オリゴマーを主成分とする軽質画分からは、酸化鉄系触媒を用いた反応を行うことで、プラスチック原料であるフェノール類を回収することに成功しています(図2)。

また、平均分子量が数千程度の中質リグニンは、ポリカーボネートの添加剤として用いることで、耐熱性・流動性が向上することを見出しています。 このように得られた成果を基に、特許出願や学会発表、論文投稿を行い、このプロセスの実現を目指しています。

図2 図2 リグニン軽質画分の触媒反応 Figure2:Catalytic reaction of lighter fraction of lignin.
technical term
リグニン セルロースとともに木材の重要な構成成分であり、木材に20~30%含まれている高分子化合物。