特集05

温泉と雪を使って発電する
Power Generation Using Hot Spring and Snow

温泉天国の北海道から人のためになる地熱活用の技術を開発 環境循環システム部門 資源生物工学研究室 助教 加藤 昌治

[PROFILE]
○研究分野/資源開発工学、地熱工学、岩盤工学
○研究テーマ/地熱資源の有効利用、地下深部の流体輸送特性評価
○研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/bio-res/www/

Masaji Kato : Assistant Professor
Laboratory of Biotechnology for Resources Engineering
Division of Sustainable Resources Engineering
○Research field : Resources development engineering, Geothermal engineering, Rock engineering
○Research theme : Utilization of geothermal resources, Fluid transport in deep underground
○Laboratory HP : http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/bio-res/www/

真冬の露天風呂で考えた
北海道だからできること

北海道は、雄大な自然景観に恵まれ、雪や温泉が観光の大きな魅力となっています。冬季の積雪も多く、年間降雪量は全国2位。 また、千島火山帯と那須火山帯が伸び、有珠山や十勝岳、駒ケ岳など活火山が多く、地熱の活動も活発なため、温泉地数は全国1位、温泉の総湧出量も大分県に次いで全国2位を誇ります。 真冬でも凍てつく寒さの中、雪深い山奥の露天風呂で身も心も温まることができる北海道の環境は、実は工学的にも大変好ましい状況であると考えられます。 というのも、高温の熱源がある場合、その周囲も高温環境だと、その熱をうまく利用することはできませんが、北海道のように高温の熱源と低温の熱源の温度差が生じる空間では、それを効率よく使うことができるようになるからです。 そこで、我々の研究グループは、70℃前後の温泉水を高熱源とし、雪氷水を低熱源として動作する水素吸蔵合金アクチュエータ(図1)を利用した発電装置を製作し、室内実験において発電することに成功しました。

図1 図1 水素吸蔵合金アクチュエータの概念図 Figure1:Schematic illustration of metal hydride actuator.

外部電力・外部動力が不要の
水素吸蔵合金アクチュエータに着目

水素吸蔵合金は、温めることで水素を放出し、冷やすことで水素を吸収する性質をもっています。 我々が考案した水素吸蔵合金アクチュエータは、水素吸蔵合金を入れた容器を二つ使い、一方の容器を温泉水の入った水槽に入れて温め水素ガスを放出させ、もう一方を雪氷水の入った水槽で冷やし水素ガスを吸収させます(図2)。 この二つの合金容器の間にピストンを置き、温められて発生した水素ガス圧でピストンを一方向に動かしつつ、スイッチバルブで水素ガスが流れる経路を反対向きに切り替えることができれば、ピストンの往復運動が続きます。 さらにそこからギアを介して回転運動に変換することで発電機が回り、電気を得ることができます(図3)。

本システムの長所は再生可能エネルギーの利活用、省スペース、ゼロエミッション、ゼロランニングコストです。 中谷宇吉郎先生は「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残しましたが、「地熱は大地からの贈り物」とも言われています。 両者を組み合わせて有効活用することができれば、北海道で持続可能な社会を構築することが期待できます。

図2 図2 合金容器の収容された熱源水貯留槽。左側に冷水、右側に温水が入っている Figure2:Heat source reservoirs including metal hydride alloy containers. 図3 図3 水素吸蔵合金アクチュエータ(右手前)と発電機(左奥) Figure3:Metal hydride actuator and power generator.
technical term
水素吸蔵合金
アクチュエータ
水素ガスの径路の切り替えと温水・冷水の流路の切り替えができれば、持続的な発電も可能になる。