特集02

北海道から持続可能なエネルギー社会形成を目指して
Toward a Sustainable Energy Society from Hokkaido

北海道に最適なエネルギー社会への道筋は私たち北海道の工学研究者が創っていく エネルギー環境システム部門 エネルギー変換システム研究室 教授 近久 武美(右)/准教授 田部 豊(左)

[PROFILE]
○研究分野/機械工学、熱工学
○研究テーマ/エネルギーシステム解析、水素燃料電池
○研究室ホームページ/http://mech-hm.eng.hokudai.ac.jp/~ene-lab/

Takemi Chikahisa : Professor
Yutaka Tabe : Associate Professor
Laboratory of Energy Conversion Systems
Division of Energy and Environmental Systems
○Research field : Mechanical Engineering, Thermal Engineering
○Research theme : Energy system analysis, Hydrogen fuel cell
○Laboratory HP : http://mech-hm.eng.hokudai.ac.jp/~ene-lab/

エネルギーの地産地消で
地球にやさしく経済を活性化

我々が暮らす北海道は200%に達する食料自給率を維持する一方で、極めて高い再生可能エネルギーのポテンシャルを持っています。 風力、太陽光、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーは、高コストで頼りないエネルギーと考えられがちですが、将来的に食料と並んでエネルギーの地産地消を実現できれば、異常気象の原因である地球温暖化防止の切り札となるだけでなく、雇用創出や地域経済の活性化も夢ではありません。

そこで私たちエンジニアは、光熱費の低価格のみを追求する既成概念に取って代わる、地域内のマネーフローと組み合わせた新しいエネルギーシステム論を構築・実現しようとしています。 エネルギー関係者および消費者の皆さんに向けて、経済が先細りしていく現在の低価格競争から脱け出すための新たな発想の転換を呼びかけています。

ものづくりプラス未来づくり
社会を見つめた工学技術

我々がいま提案している概念の一つは、大幅な省エネルギーを達成するための分散協調型コジェネレーションネットワークです(図1)。 コジェネレーションシステム(CGS)とは、電気と同時に熱も有効利用できる高効率な機器のことで、熱需要の多い北海道に特に向いています。 従来の配電系統を活用して、一般住宅やオフィスビルを含めた地域全体でエネルギーを最高効率で運用しようとする概念であり、同時に既存のエネルギー会社に対して新しいビジネスモデルを提案しようというものです。 このため、道内のエネルギー会社からも助言をいただきながら研究を進めています。

図1
図1 分散協調型コジェネレーションネットワークシステム
    既存配電系統を利用し、電気と熱を最高効率で利用できる。
Figure1:Networked cogeneration system (CGS) by the power grid.

一方、2050年には80%以上の再生可能エネルギーに基づいた社会形成を世界的に目指すこととなっています。そこで、北海道の主たる電力供給を再生可能エネルギーにするための最適形態に関する研究も行っています(図2)。 それによると、適切な容量の蓄電池の導入や送電線の増強によって電力ロスを抑え、出力変動の激しい電気を効率よく利用できることが示されています。

このように、地域全体のバランスを考慮しながら将来を俯瞰した設計図を描くことを、工学は得意としています。 北海道の持続可能なエネルギー社会を全世界に発信し、人類に貢献することが我々の最終目標です。

図2
図2 将来の再生可能エネルギーによる電力供給シナリオ(80%を風力と太陽光で供給)
    道内を4つの地域に分けたモデルにおいて、図のような送電線増強と蓄電池導入により、
    大量に生じていた再生可能エネルギーの電力ロスを約7分の1に低減可能。
Figure2:Analysis of energy system options for increasing renewable energy to 80% of total power generation.
technical term
再生可能エネルギー 太陽光や水力、風力など自然界に存在し、枯渇せず繰り返し使えるエネルギー。
化石資源と異なり、二酸化炭素を排出しないため地球にもやさしい。