流体力学でシェイクスピア戯曲の物語を可視化
Story Visualization of Shakespeare’s Plays with Fluid Mechanics
[PROFILE]
○研究分野/流体力学
○研究テーマ/省エネルギー、自然エネルギー
○研究室ホームページ
http://ring-me.eng.hokudai.ac.jp/
Yuichi Murai : Professor
Laboratory for Flow Control
Division of Energy and Environmental Systems
○Research field : Fluid mechanics
○Research theme : Energy saving; Natural energy
○Laboratory HP :
http://ring-me.eng.hokudai.ac.jp/
恋物語は山吹色、赤は破滅
名作の流れをビジュアル化
15世紀のグーテンベルグ印刷機の発明は、世界に活字文化を広めました。機械が文学を開花させた瞬間です。他方、21世紀の私達は、電子文字が数秒で世界に伝わる時代に生きています。その膨大な情報の流れに今、流体力学が活かされようとしています。もともと流体力学は、膨大な分子の時空間移流を扱うのが得意だからです。その流体力学を古典文学に適用すると、面白い発見が芋づる式に出てくるではありませんか。
図1はシェイクスピアの有名な悲劇3作の可視化結果に、ディケンズの小説2作を並べたものです。流体力学の方程式を使って、「愛」や「嫉妬」といったテーマを象徴する単語濃度分布を描かせました。さらに、その作品世界を描いた絵画から抽出した彩色パレットを重ねて反映させることで、個別の印象世界をも再生しています。
特筆すべきは、些細な模様すべてに、物語の定量的な意味が含まれていることです。『Romeo and Juliet』の場合は、北半球の山吹色が序盤の恋物語、中盤以降の黒い斑点が殺人、赤は憎悪と破滅です。こうしてシェイクスピア全37作品の可視化を成功させ、さらには源氏物語の可視化にも成功しています。我々はこの研究を“Story Flow Visualization”と名付けています。
専門性の違いを楽しむ
工学・文学・理学のバトンリレー
工学は存在しないものを創ろうとする学問の総称であり、文学もまた創作の学問です。一見相反するように見える両者の職業感は、実は同じなのです。そこに理学の視点が加わると、「知る」ことを目的にあらゆる手だてを考えようとします。この古典文学を視覚化する研究は、工学の私と文学研究者の山田美幸氏、理学研究者の熊谷一郎氏による学際課題として進めています。互いの専門性が違いすぎて討論が噛み合わないのが常ですが、一方で、各分野の専門性を高めることこそ、コラボ効果を力強くするということを知りました。学会賞や新聞報道でも高い評価を受け、私達にさらなる開拓精神を供給してくれています。
次の研究は、本成果を発展させて、ロボットが文学作品を「楽しむ」という課題に取り組もうとしています。これに何の意味があるのかという議論では、各分野で異なる投影を持つようで盛り上がっています。
Story Flow Visualization | 物語の流れを意味する“Story Flow”と、流れの可視化を意味する工学研究用語“Flow Visualization”を組み合わせた造語。 |
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