特集01

納税者の利益にかなう社会インフラ投資を見極める
-経済理論と金融工学-
Assessment of a socially beneficial infrastructure investment
–Microscopic Economics and Financial Engineering–

社会インフラは私たちの税金が原資
適切な使われ方を考える工学があります 北方圏環境政策工学部門 社会基盤計画学研究室 准教授 内田 賢悦

[PROFILE]
○研究分野/交通計画
○研究テーマ/不確実性下の意思決定
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/infrastructure/

Kenetsu Uchida : Associate Professor
Laboratory of Infrastructure Planning and Design
Division of Engineering and Policy for Sustainable Environment
○Research field : Transportation Planning
○Research theme : Decision Making under Uncertain Situations
○Laboratory HP :
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/infrastructure/

お金を使えば景気が上向く?
損をしない株式投資の方法は?

 私は、遠い将来、多額の税金を投入して建設される、社会インフラ投資の効率性推計手法を開発しています。主に経済理論と金融工学の理論に基づいた手法です。分析対象は、建設が長期間に渡る整備新幹線(図1)などです。経済理論は、複雑な経済現象の背後にある因果関係を分析するための枠組みであり、簡単にいうと、人の行動を分析するためのツールです。人の行動を考える上で難しい点は、想定通りに行動しないことですが、経済理論は決して非力ではありません。例えば、“皆がお金をたくさん使えば景気は良くなるはず”という仮説も、実際には企業の内部留保など複雑な要因がからみあい、なかなか景気が良くならないということを経済理論の視点から説明することができます。
 一方、金融工学は、不確実性にさらされた投資問題の意思決定を分析するための枠組みです。簡単な株式投資の例を挙げると、金融工学ではビール会社とアイス会社への分散投資は避けたいと考えます。冷夏の場合、どちらも売上が減少するからです。気象という不確実な事象を考慮し、ビール会社とホット飲料会社など正反対の値動きをする株式に分散投資することで大きな損失を回避できます。

図1 図1 整備新幹線の整備状況  Figure1:Shinkansen bullet train network in Japan.

空と陸、どちらを使う?
北海道新幹線の未来予想図

 北海道新幹線の投資効率性を推計する場合、①将来どれくらいの人が札幌―東京間を移動し、②その何割が新幹線を選択するかを考えます。①では将来の社会・経済指標という不確実性の影響、②では人の選択行動という、それぞれ金融工学、経済理論の考え方が適用できます。図2は、札幌―東京間における北海道新幹の収益を推計したグラフです。緑の線が航空運賃との価格競争を考慮した場合、赤の線が考慮しない場合を示しています。ここでは、航空運賃との価格競争を考慮した緑のほうが全体的に左側に寄っており、収益がマイナス(赤字)となる確率が大きいように見えますが、あまり心配ありません。なぜなら、新幹線の場合、札幌と東京の2地点間だけでなく札幌―東北間といった潜在的なニーズによって新たな収益を見込める可能性があるからです。このように社会のインフラが適正かどうかを考えるうえでも、我々工学研究者の知識・技術が生かされているのです。

図2 図2 札幌-東京間における北海道新幹線の収益 Figure2:Profit distributions of Hokkaido bullet train between Sapporo and Tokyo.

technical term
北海道新幹線 新青森―新函館北斗間は2016年3月までに開業予定。新函館北斗―札幌間は2012年に認可・着工され、2035年度までに開業が予定されている。