特集03

ビーチロックに学ぶ固化・自己修復技術
Cementation and self-healing technologies learned from beachrock

自然界ではどうして固まるのか? 
素朴な疑問が新たな研究分野の生みの親 環境循環システム部門 資源生物工学研究室 教授 川﨑 了

[PROFILE]
○研究分野/地盤環境工学
○研究テーマ/土壌微生物の工学的有効利用
○研究室ホームページ
 http://wwwgeo-er.eng.hokudai.ac.jp/

Satoru Kawasaki : Professor
Laboratory of Biotechnology for Resources Engineering
Division of Sustainable Resources Engineering
○Research field : Geoenvironmental Engineering
○Research theme : Effective use of soil microorganisms in engineering
○Laboratory HP :
 http://wwwgeo-er.eng.hokudai.ac.jp/

工学者が沖縄の海岸で
ロックンロールの研究?

 私は沖縄県に出張することが多く、その際に「沖縄県でビーチロックの研究をしています」と自己紹介すると「海岸(ビーチ)と音楽(ロック)との間に、どのような関係があるのですか?」と質問されることがよくあります。ここで言うビーチロックとは、海浜の砂礫が石灰質の物質によって自然に固化した岩のことです(図1)。自然のメカニズムは非常によくできているため、ビーチロックが固化するメカニズムを学び、それを工学に応用する研究は非常に重要であると考えています。
 砂礫が堆積してから岩になるまでには数十万年以上の長い年月が必要ですが、国内のビーチロックの中には数十年で岩になった例があります。ということは、もしビーチロックを加速固化させる技術を新たに開発することに成功すれば、海岸の侵食防止、海岸コンクリートの構造物の劣化抑制・長寿命化、地盤・岩盤・コンクリート構造物などの強度向上や亀裂の自己修復などの技術への応用が期待されます。

図1 図1 沖縄県国頭郡のビーチロック Figure1:Beachrock in Kunigami, Okinawa, Japan.

微生物の力で短期間に
土を岩やコンクリートに

 ビーチロックが固化する主な要因は、海水の蒸発による析出塩であると考えられています。しかし、それだけでは数十年で岩になった例を説明することはできません。私は、海浜の砂礫が岩になることを現地の微生物が促進していると考えています。自然の土や岩の中には非常に多くの微生物が存在し、鉄や銅などの金属資源と同様に、使い方次第では私たちの生活や暮らしを豊かにする地下資源となりますが、これまで工学の分野ではほとんど利用されていませんでした。
 ビーチロックの主なセメント物質である炭酸カルシウムは、堆積岩の主なセメント物質でもあり、環境に優しい物質です。私たちは、ビーチロックが固化するメカニズムを学ぶと同時に、沖縄県のビーチロック周辺から炭酸カルシウムの析出に適した微生物(図2)を発見し、その微生物を用いて短期間のうちに土を岩やコンクリートのように固化させる技術を開発しました。さらに、沖縄県の海岸にあるサンゴ砂にもこの技術を適用し、その有効性を確認しています。

図2 図2 グラム染色した細菌の顕微鏡写真 Figure2:Micrograph of bacteria using Gram stain.

technical term
ビーチロック 海浜の珊瑚、貝殻の破片、砂、礫などが石灰分によって固化されてできた岩石。
日本では沖縄以外にも鹿児島や長崎、能登半島などにも見られる。