特集08

水をめぐる産学官連携が創り出すもの
Industrial-government-academia cooperation
is essential for our vital water; "Water for all"

環境創生工学部門
水質変換工学研究室
教授 岡部 聡

[PROFILE]

  • ○研究分野/水環境工学、環境微生物学
  • ○研究テーマ/バイオテクノロジーを駆使した水質変換技術の開発、効率化
  • ○研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/water/

"命の水"をいつまでも
産学連携で挑む安定供給


図1 研究室風景。日々の地道な基礎研究が応用へとつながっていく。

気候変動などの地球環境問題に加え、人口増加、産業発展、都市化などにより世界的な水不足や水質汚染が進行しています。飲料水、都市用水、農業用水、工業用水など私たちの生活に欠かせない"命の水"を、今日および将来にわたって安定的に供給していくことは、私たち人類の生存のために何よりも重要なことです。

地球は「水の惑星」と言われていますが、我々が直接使用できる水は全体のたった0.01%に過ぎません。しかし、石油などとは異なり、水は比較的高速(約2週間)で循環する資源ですが、国や地域によって偏在するうえ、季節的にも大きく変動します。

このように、ちょっと厄介な水資源循環に工学的技術を加えることにより、必要な場所に、必要な時に、必要な水質の水を必要なだけ供給することができれば水問題を解決できます。この明確な目標を達成するためには、大学と産業界が一体となった取り組みが重要です。

一連の水問題をビジネスとして捉えた場合、世界の水ビジネス市場は爆発的に拡大する(市場規模は2025年で約100兆円)と見込まれています。中でも、上下水道事業の運営・管理業務が大きく伸びると予想されています。水ビジネスの裾野は広く、まさにこれからの産業分野といえるでしょう。

水不足を解決する工学技術
実現にはいくつものハードルが

水不足が極めて深刻な都市では、究極の選択肢として家庭から排出された下水を高度に処理し、直接飲用水として再利用することが考えられます。心理的な問題は残りますが、現在の水処理技術を用いると十分可能です。

また、下廃水を再利用しても水が足りない場合には、海水を真水に換えるなど新たな水源からの造水技術が求められ、これを実現するためには、微生物による微量化学物質の分解、膜ろ過技術による残留汚濁物質の除去、細菌・ウイルスなどの殺菌技術が必要とされます。

ところが、実際にそうした下廃水処理・造水技術を使用するとなると、消費エネルギーや経済性の評価、現在の水供給システムにどのように組み込むか、など様々な要素も検討項目に含めなければなりません。それはもはや、大学の研究室がカバーできる守備範囲を遥かに超えたものであり、こうした側面からも産業連携および共同研究の重要性を理解していただけると思います。

多彩な研究分野、企業が集い
産学官や国際展開の可能性も

下廃水処理・造水技術にまつわる産学連携・共同研究の研究分野は、バイオテクノロジーを駆使した廃水処理技術や膜分離技術、新しい膜の開発、水の化学的および微生物学的安全性評価など多岐におよびます。

一方、関連する企業・産業分野は、水処理機器企業(部材・部品・機器製造など)、エンジニアリング企業(装置設計・施工・運転など)、および地方自治体等(事業運営・保守・管理など)非常に幅広い分野に渡ります。

また、水という、極めて公共性の高い資源を扱う取り組みは、行政の存在を抜きには考えられず、共同研究の実用化がより現実味を帯びた段階になれば、〈産官学の連携〉へと発展していきます。今後は水ビジネスの国際展開を視野に入れ、事業運営・保守・管理分野における商社の参画も考えられるでしょう。

このように、水ビジネスは多種多様な人材・業種が集い、有機的な連携の中で大きく成長していくと期待されています。

共同研究は社会勉強の場
「目に見える」研究成果

我々の水質変換工学研究室では、有用微生物を用いた「超高速・省エネ型窒素除去システム(アナモックスプロセス)」の開発や、新規電気生産性細菌を用いて廃水からクリーンなエネルギーである電気を直接回収することが可能な「バイオ燃料電池」の開発などを企業とともに行っています。

研究室では主にベンチスケール(反応槽体積が1L程度)の実験により有用微生物の基礎的な研究を行い、企業側はパイロットスケールまで拡張した実廃水を用いた実験を行っています。水代謝システム講座に所属する研究室では、いろいろな企業と様々なレベルでの共同研究を行っています。

企業との共同研究をとおして、企業における研究開発の推進の仕方や問題意識のあり方などを学ぶことができ、その企業に就職を希望する学生さんもたくさんいます。そして何より、興味に基づく科学の真理の探究のみならず、「大学の研究成果が実社会でどのように役立つのかが目に見える」研究を行えることは、我々水環境分野の研究者に共通する喜びでもあるのです。