特集04

国際的先導研究が拓く産学連携
-高性能で環境に優しい酸窒化物セラミックス-
World leading research, developing academic-industrial collaborations:
Oxynitride ceramics as high-performance and eco-friendly materials

物質化学部門
構造無機化学研究室
教授 吉川 信一

[PROFILE]

  • ○研究分野/機能性セラミックス、結晶化学、固体化学
  • ○研究テーマ/高機能性セラミック材料の創出と結晶構造および微構造制御
  • ○研究室ホームページ/
    http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/strchem/

「産業の米」電子セラミックス
グリーンプロセスも高評価


図1 新規な金属酸窒化物の合成プロセス

物質化学部門では、現代生活に欠かせないパソコンや携帯電話、光通信ネットワークなどに使われている素材を追求しています。本頁では、そのなかで構造無機化学研究室での取り組みを紹介します。

従来の金属酸化物が、複数種類の金属イオンと酸素からなるのに対し、金属酸窒化物は、酸素とともに大気の5分の4を占める窒素をも主成分としています。酸窒化物は、高価な稀少金属(レアメタル)を用いなくても酸素と窒素の共存により優れた機能性を示す可能性を秘めていることから、資源的にも魅力的です。

また、一般的な電子セラミックスは、原料となる金属酸化物の混合粉を茶碗や湯飲みと同じように高温炉で焼いて製造しますが、新素材は、水溶液として均一に金属塩を混合して合成するところから(図1)、従来よりも数百度低い温度で合成が可能であり、大きな省エネ効果があります。21世紀のものづくりにおいて重要視されるグリーンプロセスという面でも高い評価を得ています。

ものづくり日本を先導する
新素材が続々誕生

この低温合成プロセスを活用した酸窒化物から、白色LED用蛍光体(図2)、巨大な誘電率をもつコンデンサー材料(図3)、高容量・長寿命二次電池材料、さらには大電流を流せる超伝導セラミックスなど、〈ものづくり日本〉を先導する新素材が続々と生まれています。


図2 ユーロピウムをドープした新規な酸窒化物蛍光体
β-Si6-zAlzOzN8-zの含有酸素量zによる発光の変化(365nm励起)


図3 新規酸窒化物誘電体SrTaO2Nセラミックス。静電容量から見積もられる誘電率εrは約6000と、鉛を含む既存材料に匹敵する。

世界各国と共同研究
IT・自動車業界とも連携

これらの優れた機能性を発現するには、金属酸窒化物の結晶構造や電子状態を理解して設計することが重要です。現在はドイツ、フランス、アメリカ、スイス、中国、インド、イスラエルなどの一流大学との共同研究が進み、世界的な研究拠点の一つになっています。他方、産業界も新しい化合物群の優れた機能性に着目し、国内外の電子材料、化学工業、ITデバイス、自動車の大手企業との産学連携がいくつも同時進行しています。

今、我々がいるのは大学の研究室という専門特化した場ではありますが、自分の手で新素材を生み出し、ものづくりに没頭する楽しさは、皆さんが子どものときに体験した〈つくる喜び〉となんら変わるものではありません。関心がある方はどうぞ気軽に研究室に遊びにきてください。