特集03

産学連携によって有価物に化けるバイオマス廃棄物
Biomass wastes transformed into valuables by industry-university cooperation

有機プロセス工学部門
化学システム工学研究室
教授 増田 隆夫

[PROFILE]

  • ○研究分野/触媒反応工学、化学工学
  • ○研究テーマ/難処理炭素物質の資源化、反応・分離プロセスの高度化
  • ○研究室ホームページ/http://cp1-ms.eng.hokudai.ac.jp/

輸入石油の1割が化学製品原料
原油価格に動じない社会構造に

数ある資源のなかでも、私たちの生活に深くかかわっているのが石油です。日本に輸入される石油の約9割が、燃料として消費され、残りの1割は、薬、衣類から樹脂に至る化学製品の原料として使われるため、原油価格の変動は社会にさまざまな影響を与えます。

そうした影響の少ない社会構造に作り替えていくために、再生可能な「バイオマス」から化学製品の原料を得る技術開発が進められています。バイオマスは、太陽エネルギーを化学物質として固定化したものなので、保存や搬送もできる特徴を持っています。

注目は一カ所に大量廃棄される
非可食性バイオマス

日本では、規格外ビートなど可食性バイオマスから製造したバイオエタノールを自動車用燃料として消費してきましたが、現在は樹脂原料となるプロピレンやエチレングリコールに変える研究が進められています。しかし、今後は一か所に集中して大量に廃棄される糞尿、下水汚泥、廃材など非可食性バイオマス廃棄物から化学品原料を生産する研究が重要となります。

これら非可食性バイオマスは、巨大分子であり、それを構成する基本ユニットの構造は機能性化学品の原料の分子構造に似通っています。そのため、これら基本ユニットをそのまま単離する技術開発が強く望まれています。

触媒の力で目的物質を生成
実用化を目指した産学連携


図1 リグニンからのフェノール 単離回収

現在、木質系バイオマスに含まれるリグニンからのフェノール製造(図1)、家畜糞尿からアセトンの製造、バイオディーゼル製造時に副生する廃グリセリンからのアリルアルコールとプロピレンの製造について触媒化学の立場から研究を行っています。

このような研究は、実用化を指向する工学の立場から企業と連携して行います。廃棄物が排出される現場と実用化する企業からの情報を知ることで、実用化のために開発すべき課題を抽出することができます。また、これらの研究を進める際には、目的物質を得るまでに投入するエネルギーが、石油を原料とする生産工程より少ないことが必要条件になります。我々大学で見出した「個(例えば触媒)」と、企業に場所を移した後の「システム(実用化)」、それぞれの最適条件は異なります。この差異を産学連携を通じた研究開発によって埋めることで、社会還元という出口を目指していきます。

冒頭に述べたとおり、石油価格に動じない社会構造に作り替えていくためには、〈油田〉を所有することが最善の策であることは皆さんにもご理解いただけると思います。将来的に非可食性バイオマスを〈化学原料の油田〉化に成功すれば、国際競争の中での日本の立ち位置も大きく変わっていくはず。ハードルは高いですが、やり甲斐のある研究です。