特集05

ナノ粒子で未来を創る。
エレクトロニクス・バイオ・触媒・安心安全
Nanoparticles for the future: electronics, biotechnology, catalysts, safer society

材料科学部門
表界面微細構造研究室
教授 米澤 徹

[PROFILE]

  • ○研究分野/ナノ材料、電子顕微鏡、有機無機複合体
  • ○研究テーマ/金属ナノ粒子合成・構造・物性、電子部品部材としてのナノ粒子、ナノ材料を用いる新しい質量分析法、金属と有機物のヘテロ界面制御、新しい電子顕微鏡観察法
  • ○研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/lims/

サイズが変われば性質も
研究者を魅了するナノ粒子


図1 さまざまな金属ナノ粒子の色。ナノ粒子はその材質、大きさによって異なった色を見せる。右のものは蛍光発光しているナノ粒子。

「ナノ粒子」は日本のお家芸です。日本にはERATOという大きな研究推進事業があり、その初期に展開された超微粒子プロジェクトが今の世界のナノ粒子科学の基礎を作ったといっても過言ではありません。

でははじめに、皆さんに身近な例として〈ナノ粒子と色〉の関係で物質の面白さを解説していきましょう。例えば、金や銅の赤色、銀の黄色は、ステンドグラスや江戸切子など多くのガラス工芸品に用いられています。金の赤色は光にさらされても退色しないため、長い間美しい色を保つことができます。ところが、この金ナノ粒子をもっと小さくすると、まず鮮やかな赤色はなくなり、ナノ粒子の分散液は褐色に。そしてさらに小さくすると、驚くことに蛍光を発するようになるのです(図1)。

つまり、同じ物質でも大きなものとナノレベルに小さくしたものとでは「量子サイズ効果」によって性質が異なる。これがナノ粒子が色々な研究者を惹きつける理由でもあるのです。

はたらきものの触媒として
持続可能な社会に貢献

また、多くの金属ナノ粒子は、自動車の排気ガスの浄化や燃料電池などに「触媒」として用いられています。触媒は自らは反応せずに化学反応を促進するために役立ちます。金属ナノ粒子の触媒としてのはたらきを安定化するため、他の金属を混ぜる合金化や他の触媒との複合化などが取り組まれています。

例えば、パラジウムと白金を合成する合金ナノ粒子の場合、手法をうまく選択すると、たった1粒が55個の原子からなっていても、その中央部の13個が白金に対し、表面にある42個がパラジウムとなる、まるで大福もちのような「コア-シェル構造」のナノ粒子を合成できます。こうしたナノ粒子はさらに高活性を示し、活性が高くなれば少ない金属量でよいということになり、サステナブル(持続可能)社会に貢献することができます。かつての科学者たちが夢見た〈錬金術〉とはこういうことだったのかもしれません。

質量分析分野で新たな試み
ナノ粒子が守る安心・安全


図2 有機マトリクスと白金ナノ粒子でとったLDI-MSによる質量分析スペクトルの例1

ナノ粒子を用いる新しい応用例として私が今注目しているものは、有機化合物の分子量を決定する〈質量分析〉の分野です。質量分析をするためには、対象物をイオン化し、そのイオンの質量を測定します。イオン化する手法の一つとして、物質にパルスレーザーを照射して脱離・イオン化を行うLDI法があります。

LDI法では、分析したいサンプルに多量の有機マトリクス分子を加えてレーザー照射します。このとき、レーザーの光エネルギーをマトリクス分子が吸収し、急速加熱されたサンプルを気化させ、イオン化する仕組みです。この方法はたんぱく質や高分子の分析には威力を発揮しますが、人間にとって重要な薬物や毒物などの低分子量領域ではマトリクス分子とその分解物のピークが多く混在し、解析を難しくしています(図2)。

そこで考え出されたのが、マトリクスに代えて簡単に分解しないナノ粒子を用いる方法です。不要な分解物のピークの出現をなくすことができ、解析をとても容易にすることができます。LDI法は測定時間が短いため、今後、医療・司法の場面でも中毒の早期発見や犯罪の防止に役立ちます。このように私たちのナノ粒子研究が社会の安心・安全に貢献できることを目標に、日々の研究に取り組んでいます。