特集01

大学発の産学連携
The mission of University for the future innovation for industry

資源循環システム部門
資源循環材料学工学研究室
教授 名和 豊春

[PROFILE]

  • ○研究分野/建設材料学、界面化学、資源工学
  • ○研究テーマ/高機能性建設材料の創出および無機酸化物‐ポリマーの相互作用制御
  • ○研究室ホームページ/http://saikou-main-sw.eng.hokudai.ac.jp/

「これだ!」セレンディピティとの出会い
試行錯誤の末に測定センサーを開発

「先生どうしても計れません」。ある日のこと、研究室の学生H君が血相を変えて私の部屋に飛び込んできました。聞けば、文献をもとに作製した装置でまだ固まらないコンクリート中の水和反応による体積変化を計ろうとしたのだけれど、全く測定値が出力されないという。きっと何か気づかぬ不備があるのだろうと、私も加わり二人で夜を徹して装置の見直しをしても不審な点はありません。

これは無理かと思い始めたときでした。どうしてもあきらめきれない感のH君が「計れないわけはない。必ず何か原因があるはずです」と言い出し、翌日から再び昼夜を問わず試行錯誤の繰り返し。様々な角度から検討した結果、柔らかい物体のひずみを計るには、それと同じ程度のヤング係数を有するひずみゲージが必要だということに気付きました。

ところが、市販品にはそのようなものはありません。ならば自分たちで作るしかないと、手元にあったペーパーゲージに防水も兼ねてシリコーンで被覆した不格好なセンサーを恐る恐る試験体に埋め込み、測定器につないでみたところ、ひずみを示す値が少しずつ動くではありませんか。「これだ!」自作センサーでの測定が始まりました。

その後、測定データの再現性を高めるために複合材料の知識を応用して改良を図ったセンサーは、特許を取得すると共に市販品という形で社会へ流通されることになりました。工学上の問題を解消する研究から、自然現象を素直に認識し、それを何とか測定しようとする努力と熱意が一つの発見をもたらす、まさにガラクタの中から学問を建設するセレンディピィアな成果をもたらしたことになったのです。


図1 水分の凍結・融解からの1.4nmの微細空隙の測定例

「社会のため科学=工学」がもたらす産学連携
就職率100%の相乗効果も


図2 分子動力学による高分子の動的形態

この測定技術によって、コンクリートが乾燥によってひび割れする現象が明らかになり、さらにその原因である乾燥過程におけるnmサイズの微細組織中の水分の安定性を、空隙中に含まれる水の凍結・融解の挙動から測定する方法(図1)や、NMR(核磁共鳴法)を用いて測定する方法を開発し、ひび割れがなぜ発生するかを解明することができました。

原因が分かれば、あとは収縮に寄与する水分を安定化させる方策を探すだけ。図2に示すような分子動力学という方法で最適な高分子(ポリマー)を理論的に予測し、高分子を合成している企業と一緒に開発研究を行い、何とかそれを可能とする物質を探し当てることができました(図3)。

このように、工学部の多くの研究室では、企業では行わない基礎的な研究の中に「アイディア」を見出し、色々な企業との連携研究を通じて研究成果を実社会に還元しています。1998年の世界科学者会議において言及された「社会のための科学」とは「工学」が果たす使命そのものでもあるのです。学生も企業との連携の中で、最先端の研究手法や真摯な企業との討論の場に触れることで社会人としての自覚が芽生えるようです。この不況期でも就職率100%という相乗効果がもたらされています。


図3 コンクリートの収縮低減剤を共同開発
(建設通信新聞2011年10月20日掲載)