特集06

放射線と医療の世界
Radiation and radiation therapy

量子理工学部門
量子ビームシステム工学研究室
特任教授 鬼柳 善明

[PROFILE]

  • ○研究分野/中性子科学
  • ○研究テーマ/中性子イメージング、放射線医療応用、加速器中性子源工学
  • ○研究室ホームページ/http://toybox.qe.eng.hokudai.ac.jp/

北大病院と協同で
陽子線治療装置を建設


図1 陽子線による体への影響の大きさ

放射線は、宇宙の始まりから存在し、今も我々の周りを飛び交っています。今、福島原発事故では大きな問題になっていますが、使い方によっては人類のために大いに役立てることができるものです。

その最たる例は、医療の分野で、放射線(最近はより広い意味で"量子ビーム"とも言われています)は無くてはならないものとなっています。ガン治療では、X線だけでなく、陽子、炭素原子核、中性子などの量子ビームが使われています。まさに、理工学の分野が得意としてきた分野です。

放射線治療は短時間の照射を繰り返すだけで治療が行えるために、体に対する負担が小さく、通常の生活をしながらでも治療ができるので"Quality of Life"(生活や生き方の質)が高い治療法と考えられています。

現在、工学部では、粒子加速器を用いた量子ビームに関するこれまでの研究をベースにして、医学部と協力して医療応用を進めています。北大病院が建設を進める陽子線治療装置にも多面的に協力しています。


図2 陽子線とX線照射における放射線量分布の違い

産学の力で最良の施設へ
放射線医療の有資格者も育成


図3 北大に建設中の陽子線治療施設

では、陽子線についてもう少し詳しく説明していきましょう。図1は、陽子線による人体内での放射線の効果を示したものです。陽子線はある決まった場所でピークが表れ、そこで大きなダメージを与えることができます。この位置は、陽子エネルギーによって調整できるので、ガン部を狙い撃ちすることができます。

図2は、陽子線とX線の影響の分布を示しており、X線ではガン部以外での影響が陽子よりも大きいことが分かります。陽子線はより安全な治療法である、というわけです。次に、陽子線治療装置の概略を図3に示します。この装置の主要部分は加速器です。加速器の製作や、陽子線と物質の相互作用の検証は、まさに理工系の分野であり、加速器ビーム科学の知識が役に立ちます。また、加速器の開発・製作には色々なメーカーが携わり、施設設計には放射線遮蔽の最適化技術が役立ちます。

からだにやさしい陽子線治療を北海道の、しかも都心部に位置する北海道大学で受けられることができれば、道民の皆さんが現在抱えている距離や時間的な負担も大きく軽減することができます。治療方法の改善を含め、工学と医学、さらには産学が力を合わせて最良の施設とするべく努力をすることが要求されます。

なお、工学院には、放射線医療に携わるための資格となる医学物理士・放射線治療品質管理士養成のためのコースが設けられています。このコースを受講して医療関係の企業に就職する学生も出てきており、まさにこれからの分野です。