特集03

環境を優しく守る環境浄化触媒
Environmental catalyst which is safe for the environment

石油に代わる次世代化学資源を探して。排ガス浄化の中に見出す未来の自動車像。 准教授 下川部 雅英

[PROFILE]
○研究分野/触媒化学、反応工学
○研究テーマ/環境浄化触媒の開発と触媒作用機構の解明
○研究室ホームページ 
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/catal/index.htm

Masahide Shimokawabe : Associate Professor
Laboratory of Chemical Reaction Engineering Division of Chemical Process Engineering
○Research field: Chemistry of Catalysis, Chemical Reaction Engineering
○Research theme: Development and improvement of environmental
 catalysts and elucidation of the catalysis mechanism
○Laboratory HP:
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/catal/index.htm

地球資源の枯渇と
環境問題の解決にむけて

 近年、省エネルギーでCO2排出量の少ないディーゼルは、環境型エンジンとして欧州を中心に採用されてきています。しかしディーゼル車はガソリン車に比べて燃焼室内が空気過剰であるためNOxが発生しやすく、排気中の残留酸素が多いことから、ガソリン車の排ガス処理に用いられている三元触媒を使用できません。
 そこで、ディーゼルNOxの新しい除去法として、ジメチルエーテル(DME)を還元剤に用いたNOx還元法を開発しています。金属担持アルミナ触媒が有効であることを見出し、現在は触媒の高性能化と反応機構の解明に取り組んでいます。また、実際のエンジン排ガスに対する触媒性能を小川英之教授と応用熱工学研究室の皆さんに検討して頂いています。
 自動車排ガスの脱硝システムは図1に示した通りですが、現在、ディーゼル車のNOx後処理には、尿素水の熱分解で発生したアンモニアによりNOxを選択触媒還元(SCR)する、尿素SCR装置が実用化されています。しかし、過剰に生成したアンモニアが新たな汚染物質となること、尿素水が寒冷地では氷結する恐れがあることから、現行の装置は十分に成熟した技術に至っていないと言えます。

図1 自動車排ガス脱硝システムの比較
図1 自動車排ガス脱硝システムの比較 Figure 1 : Comparison of deNOx systems of car exhaust

 私たちのDME-SCR(下式)では、現行の尿素SCRより利用しやすくかつ有効なNOx後処理システム(図2)を追求しています。
 2NO + 2NO2 + 3O2 + 2(CH3)2O → 2N2 + 6H2O + 4CO2
この方法は自動車のほか、鉄道、船舶や工場、火力発電所にも、環境を優しく守る環境浄化システムとして応用可能です。

図2 DME-SCRによるディーゼル排ガス脱硝システム
図2 DME-SCRによるディーゼル排ガス脱硝システム Figure 2 : Diesel NOX reducing system using SCR with DME

クリーンなディーゼル燃料
いま注目される化学原料DME

 DME[(CH3)2O : 図3]は天然ガスやバイオメタノールから簡単に合成でき、産油国に依存しない次世代燃料として注目されています。硫黄を含まず粒子状物質(PM)も排出しないのでクリーンなディーゼル燃料と考えられているほか、燃料電池用の水素源としても利用できます。また、毒性が低く、特性がLPGと似ているため扱いやすいので、フロンガスに代わる噴射剤としても使われています。

図3 DMEの構造
図3 DMEの構造 Figure 3 : Structure of DME

technical term
NOx 窒素酸化物(ノックス)。窒素酸化物の一種であるNOは酸性雨や光化学スモッグなど大気汚染の原因物質として知られている。