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卒業生コラム

二宮 博正

核融合発電の実現を目指して

独立行政法人
日本原子力研究開発機構
核融合研究開発部門長
兼 那珂(なか)核融合研究所長

二宮 博正 Hiromasa Ninomiya
[PROFILE]
1972年 北海道大学工学部原子工学科卒業
1974年 同 大学院工学研究科 原子工学専攻修士課程修了
日本原子力研究所
(現 独立行政法人日本原子力研究開発機構)入所
2003年 同 炉心プラズマ研究部長
2005年 独立行政法人日本原子力研究開発機構
先進プラズマ研究開発ユニット長
2009年 同 核融合研究開発部門長 兼 那珂核融合研究所長
現在に至る

核融合という言葉との出会い

 皆さんは「核融合」という言葉を聞いたことがありますか? 核融合とは、水素などの軽い元素が融合して重い元素になり、エネルギーを発生する反応のことです。核融合反応を実現するためには、元素を超高温にする必要がありますが、そのような状態では物質はプラズマ状態になります。
 私は小学校5年生の時に、"数十万度のプラズマの閉じ込めを達成"という雑誌の記事を見て、「どうして、そんな温度のものを容器の中に閉じ込めることができるのか?」と先生に質問したのが、核融合という言葉との出会いです。先生も「わからない」とのことで、しばらく忘れていましたが、記憶のどこかに残っていたのか、核融合の研究を始めました。そして、修士課程修了後に本格的に核融合の研究をしたいと思い、日本原子力研究所(現 独立行政法人日本原子力研究開発機構)に入所しました。

JT-60の設計から製作、
そして実験へ

フランスカダッラシュで建設が進められているITERの鳥瞰図。
▲フランスカダッラシュで建設が進められている
 ITERの鳥瞰図。
 私が研究所へ入った年から、当時あった装置の約3倍の大きさで100倍以上の性能を狙った、「JT-60」と呼ばれる大型トカマク装置の設計が始まりました。トカマク装置とは、ドーナツ状の真空容器を取り囲むように電磁石コイルを配置し、このコイルが作る磁場を利用して高温のプラズマを保持する装置です。
 私はこのJT-60の設計、製作・組み立て、装置の完成後のプラズマ実験と装置の改造に携わってきました。自分でもよくこのような幅広い仕事に対応できたと思いますが、学部・大学院での原子工学科の幅広い工学分野をカバーしていたカリキュラムのおかげだと思います。社会に出てから、その重要性を再認識した次第です。

世界の協力で進む
「ITER」建設

 この核融合反応を発電に利用しようとするための重要な一歩である「国際熱核融合実験炉(ITER)」の建設が、日・米・欧・露・中・韓・印の協力のもとで進められています。ITERでは、重水素とトリチウムを1~2億度の温度まで上げ、核融合反応により50万キロワットの熱出力を実現します。
 ITERの大きさは、JT-60の2倍以上、超伝導導体で作られた電磁石コイルの大きさは、高さ16.5m、幅9mです。さらに、プラズマの温度を数億度まで上げるための高エネルギーのビーム入射装置や高周波入射装置、組み立て中のJT-60。オレンジ色の機器が真空容器の周りに設置されている電磁石コイル。手前に写っているのは作業中の人。
▲組み立て中のJT-60。
 オレンジ色の機器が真空容器の周りに
 設置されている電磁石コイル。
 手前に写っているのは作業中の人。
真空容器の中の物を遠隔操作するためのロボットなどが必要となります。ITERは、まさに最先端技術の固まりで、さまざまな工学分野の人が活躍できます。日本原子力研究開発機構では、これらの最先端機器の製作を進めています。また、ITER建設と並行して、ITERに貢献するとともにその次のステップである原型炉を目指した幅広いアプローチ活動を進めています。
 現在、私はこれらの活動が順調に進むための調整に全力で取り組んでいますが、その原動力は核融合を早く実現したいという思いからです。皆さんもぜひ情熱が注げる分野を見つけ、大学院で次のステップへの力をためてほしいと思います。

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