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卒業生コラム

中井 由枝

大学時代の経験が今の自分を支えています。

JFEスチール株式会社
スチール研究所
製鋼研究部 主任研究員

中井 由枝 Yoshie Nakai
[PROFILE]
1996年 北海道大学工学部応用化学科卒業
1998年 同 大学院工学研究科物質工学専攻修士課程修了
同 年 日本鋼管株式会社入社
同 総合材料技術研究所 製鋼研究部
2003年 JFEスチール株式会社 スチール研究所 製鋼研究部
現在に至る

「鋼」を生み出す

図1  転炉への溶銑挿入
図1 転炉への溶銑挿入
 私たちの周りには、鉄鋼製品があふれています。建築物や橋梁、船舶などの構造体に使用されている形鋼や鋼板。鉄道のレール、自動車も鉄でできています。家電製品や厨房器具には、鉄とクロムの合金、ステンレス鋼が多く用いられています。 鉄製造のプロセスは、最初に高炉で鉄鉱石とコークスを高温下で化学反応させ、鉄鉱石を還元し、炭素を多く含んだ「溶銑」を取り出します。「溶銑」は、1000℃以上もの高温の液体です。次に、リン、硫黄などの不純物を除去し、転炉とよばれる炉の中で炭素を取り除き「溶鋼」となり、水素や窒素などのガスを除去、必要な元素を添加して、成分調整を行います。こうして生まれた「溶鋼」は、固められて「鋳片」となり、その後、圧延されて必要な厚さの板となります。

スケールの大きな研究開発

図2  スチール研究所  (福山地区)
図2 スチール研究所 (福山地区)
 液体状態の銑鉄から不純物を取り除き、成分調整を行う工程(精錬)と固める工程(鋳造)をあわせて製鋼プロセスとよび、私はその製鋼プロセスの研究開発を行う研究部に所属し、特に「精錬」プロセスの研究開発を行っています。高純度、高清浄な鋼を効率的に製造するための革新的な精錬プロセスの開発、操業の安定化・高速化を目的としたプロセスの研究開発を行っています。研究開発のステップとしては、水モデル装置や、小型の溶解炉を用いたラボ実験による基礎実験から始まり、調査・解析を行い実操業での試験へ展開していきます。ラボ実験のスケールは、数kgから数百kg。実操業では、数百トンものスケールになります。1000℃を超える高温の液体、赤い鉄が流動する様子は、大迫力です。
 自らが考案し、ラボ実験で検証した技術を、実際の製造設備での試験に展開する時には、実機試験の成功を祈るようなドキドキした思い、緊張感を感じました。製造設備での試験結果をさらに評価し、実用化に至った際には、新設された設備を見て、自分がやった仕事なのだと実感がわき、大きな達成感を感じたことを思い出します。これは、彼女が開発した技術なのだよと、後世に長く残されるような技術開発を行いたいと思っています。

やりたいことは無限、
時間は有限

 社会人生活は、大学時代よりも時の流れが速く感じられます。入社からあっという間に数年が経過しました。私生活でも結婚、長女の出産、今は、仕事と育児に忙しくも充実した毎日を送っています。自分で納得のいく内容の仕事がしたい、家族の時間も大切にしたい。大学時代は、馬術部に所属し、早朝から日が暮れるまで、平日も休日も練習や試合、馬の世話や馬を養うためのバイトなどに明け暮れた毎日でした。決して良い学生であったとは言えませんが、早朝に部活動、昼間は授業、途中で馬の餌の草を刈り、夕方は厩舎作業、また研究室に戻って実験、夜中まで研究室にいたこともありました。学生時代にも、現在にも共通して言えることは、やりたいことは無数にあるけれど、1日は24時間、自分に与えられた時間は限られているということです。大事なことは、めりはりをつけて、その時その時、やりたいことに一生懸命取り組むこと。そして、最後までやりぬくこと、大学時代の経験が今でも自分を支えていると思っています。

図1 JFEスチール株式会社 西日本製鉄所(福山地区)製鋼部の概要パンフレットより
図2 JFEスチール株式会社スチール研究所パンフレットより

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