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ごみ問題を総合的に理解し、評価する

松藤教授

買いたい、欲しい、集めたい。ごみ問題を通じて自問する「本当の豊かさってなんだろう」

環境循環システム専攻
廃棄物処分工学研究室
教授

松藤 敏彦 Toshihiko Matsuto
[PROFILE]
◎研究分野/廃棄物工学、環境システム工学
◎研究テーマ/ごみの発生から処分までのシステム全体を対象とした総合的評価
◎研究室ホームページ/http://wastegr2-er.eng.hokudai.ac.jp/home/index.htm

買ったものが「ごみ」になる
社会におけるものの流れを知る

 ごみ処理と聞くと、何を思い浮かべますか?焼却? 埋立?しかし、ごみはいろいろなものの集まりです。どう分けるか、あるいは何と一緒に処理するかによって、処理の効率が変わります。また、処理方法もさまざまであり、その中から適切な方法を選ぶことも必要です。例えば、焼却すると灰が残り、それを埋め立てるように、それぞれの処理は他の処理に影響を与えるため、ひとつの処理について考えるだけでは不十分です。リサイクルの場合には、回収物をどう利用するかまで考えなければなりません。さらに、ごみとなるずっと前の段階から、リサイクルしやすい製品、処理のとき環境に影響を与えない製品づくりも必要です(図1)。
 以前のごみ処理は「後始末」にすぎませんでしたが、現在は、ものを作ってから処理するまでの一生涯(ライフサイクル)にわたる総合的廃棄物処理が、求められています。他の工学との一番の違いは、「社会におけるモノの流れを意識し」「後始末側から製造側にさかのぼって見ていること」でしょう。ごみ処理は、大きな社会システムといえます。

技術−環境−経済−そして人
個々の点をつなぐ研究

 工学技術の評価の対象は、目的とする機能がどれだけ果たせるかです。しかし、最近は、環境への影響が小さいことが要求されるようになり、コストも重要となります。さらに、ごみの分別や処理施設の建設などに対する理解や、住民の意識を高めることも必要です。つまり技術以外に、環境、経済、社会の面でも評価軸を持たなければなりません。環境に関してはライフサイクルにわたる評価、リスクの評価、経済に関してはコスト分析、社会の側面では住民の意識・行動調査など、工学的ではない研究も必要になります。
 工学の研究とは、ある特定のことを専門的に突き詰める、あるいは先端を追うことを想像すると思います。しかし、以上のように、ごみ処理は「社会における境界領域的システム」です。このシステム全体をより良いものとするために、もちろん個々の部分に関する専門性は保ちながら、焼却、埋立、有機性廃棄物や建設廃棄物の資源化など、さまざまな処理技術を対象とし、住民調査、統計調査などの社会・経済的手法も含め、研究を行っています。

図1 リサイクルの前にすることがある
図1 リサイクルの前にすることがある
画/高月紘

図2 日本の平均的家族と所帯道具
図2 日本の平均的家族と所帯道具(すべて将来の廃棄物)
高月紘「ごみ問題とライフスタイル」口絵より

technical term
総合的廃棄物処理 すべてのごみ、排出から埋立までのすべての処理をひとつのものと考える。全体を眺める鳥の目と、部分を丁寧に見る虫の目を持とう。