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都市ゴミもリサイクル

名和教授

持続可能な社会のヒントを自然界の共生から学ぼう。「静脈産業」を支えるエコマテリアル。

環境循環システム専攻
資源システム工学研究室
教授

名和 豊春 Toyoharu Nawa
[PROFILE]
◎研究分野/資源リサイクル、セメント化学、エコマテリアル
◎研究テーマ/廃棄物の再資源化、高分子による無機材料の高機能性
◎研究室ホームページ/http://133.87.124.210/index.html

セメントはエコロジカルな材料
有害物質対策にも有効

 地球規模での環境劣化が指摘されていますが、有害物質の汚染が自然界でありえないほど増すということは、裏返せば有害な元素が使い捨てにより枯渇していることになります。この意味で、産業界や一般の生活から排出されるゴミを有益な原料と見なし、これを有効活用する社会システム、従来の産業構造を人体に例えて「動脈産業」と呼ぶならば、「静脈産業」と呼ぶべき新しい産業の創造が重要になると思われます。
 最近では、都市ごみ焼却灰がセメント原料と同じ成分を含んでいることに着目し、都市ごみの焼却灰を原料の約半分に使用したエコセメントが開発され、既に実用化されています。このエコセメントの製造工程では、都市ごみ中の塩化ビニールなどに由来するダイオキシン類の除去が可能になり、かつ有害物質をセメント中に固溶して排出しない効果を上げています。セメントはエコロジカルな材料として魅力的な材料といえます。

質が落ちないリサイクル素材
エコセメントの強度を改善

 しかし、エコセメントを用いたコンクリートを1年以上の長期で使用すると、用いたコンクリートの微細構造中に空隙が生成し、長期での強度が伸びない事例が生じ、廃棄物を利用したエコ材料の品質に対して深刻な問題が突きつけられました。
 私たちは、この長期強度が伸びない理由についてXRDやEPMAなどを用いてミクロレベルから検討し、エコセメントを構成する化合物中に固溶しているリンが、長期になってセメント硬化体中に溶出するため、空隙が多く生成することが原因であることを解明しました。さらに、火力発電所から排出される産業副産物であるフライアッシュのリンの吸着能力が大きいことに着目して、これを大量に添加してエコセメントの長期での強度の伸びを改善することに成功しています。
 環境負荷低減に対する要求は年々過酷になり、経済の成長を妨げることが懸念されています。私たちは、静脈産業を支える、低エネルギー消費型で低炭素排出型のエコマテリアルの開発を、持続可能な社会を実現する基盤技術ととらえ、この問題に取り組んでいます。

図1 エコセメント・クリンカーの反射電子像とEPMA元素分布図
図1 エコセメント・クリンカーの反射電子像とEPMA元素分布図
普通のセメントに比べP(リン)の含有量が多い。

図2 フライアッシュ および高炉スラグの添加によるEco-cementの長期強度発現の改善
図2 フライアッシュ および高炉スラグの添加によるEco-cementの長期強度発現の改善
OPC:普通ポルトランドセメント、EC:エコセメント、
ES:高炉スラグ混合、EF:フライアッシュ混合、
ESおよびEFの後の数字は置換率を示す。

technical term
フライアッシュ 火力発電所で微粉炭を燃焼した際に発生する石炭灰のこと。