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使用済みナトリウム-硫黄二次電池の再利用

郷原教授

北海道が挑む、世界初のナトリウム電解精製。金属資源の国内循環システムへの試金石に。

材料科学専攻
環境材料学研究室
准教授

上田 幹人 Mikito Ueda
[PROFILE]
◎研究分野/電気化学、表面処理、腐食科学
◎研究テーマ/溶融塩・イオン液体における電気化学
◎研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/CorrLabo/

産業界を下支えするNa-S電池
今後は世界でも需要が拡大

 蓄電媒体のナトリウム-硫黄(Na-S)二次電池は、日本で生産されている産業向けの二次電池です。この電池は電力会社における昼間のピーク電力の補助、工場の停電対策、太陽光発電における蓄電用として多く用いられるようになってきています。また日本だけでなく世界中で風力発電、太陽光発電が盛んになってきましたので、今までは国内だけで使われていましたが、今後は世界中で使われる事になるでしょう。このNa-S二次電池の寿命は15年程度と長期間にわたって使用できる電池です。

使用済み電池の中に潜む
金属ナトリウムの高純度化

 充放電を繰り返して使用済みになったこの電池の内部には、金属ナトリウムと硫黄の化合物が残されています。これを有効利用できないかと考えたのが、図1に示すリサイクルフロー図です。電池の中の金属ナトリウムは、不純物を除去することで再び電池の原料にすることができます。硫黄の化合物は、土壌や工場から排出される重金属の吸着剤の原料として利用することを考えています。
 例えば、この使用済み電池を再利用しないで、そのまま処分することを考えてみましょう。電池の中の金属ナトリウムは、現在日本では生産されていなく、全てを輸入に頼っている状況にあります。そのナトリウムを不活性な形で処理するため、すなわち、廃棄するためにエネルギーが必要になります。そのようなエネルギーにプラスαのエネルギーでナトリウムを精製できるのであれば、再び金属としてナトリウムを使った方が資源の有効利用だと思いませんか?
 ナトリウムの電解精製は、図2に示すように左側の不純物を含む金属ナトリウムからナトリウムだけが電解反応によってナトリウムイオンになり、右側の純ナトリウムのところでナトリウムイオンだけの還元反応が進行するため、高純度の金属ナトリウムが得られることになります。このナトリウム電解精製は、世の中でまだ確立されていないもので、工業化されれば世界初の技術になります。この電池のリサイクル計画は、北海道立工業試験場と共同で研究しています。将来北海道でこの世界初の技術が生かされ、国内でのナトリウムを使った産業に寄与できることを目指しています。

図1 提案するNa-S二次電池のリサイクルフロー
図1 提案するNa-S二次電池のリサイクルフロー

図2 Na電解精製装置の模型
図2 Na電解精製装置の模型

technical term
電解精製 電気を使って不純物を含む金属の高純度化を行うプロセス。