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土砂災害から命と生活を守る

三浦教授

安全を奪う斜面崩壊に科学のメスを入れる。
防災・減災の基本を支える学問です。

環境循環システム専攻
地盤環境解析学研究室
教授

三浦 清一 Seiichi Miura
[PROFILE]
◎研究分野/地盤工学
◎研究テーマ/地盤動力学、破砕性粒状体力学
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/geomech/index.html

忘れた頃にやってくる
天災に備えて耐震性能を評価

 急激な力学的アンバランスによる地盤災害が世界のあちこちで起こっています。日本各地でもさまざまな土砂災害に悩まされています。たとえば地震は、尊い人命を奪い、日常生活に支障が出るほどの甚大な被害をもたらしています。このため、私たちはライフライン施設や交通施設を支えている基礎地盤の耐震性能の評価とそれを高めるための研究を進めています。土木工学(建設ばかりではなく生活を守るための“防災”の側面も有する学問分野)の中での地盤工学は、地盤の動的強度や変形、地盤内の水の移動について最先端の計測と解析を行い、自然災害を最小限にするための方策を確立することを目指しており、まさに“防災・減災”に関する学問の原点になっています。ここでは、斜面崩壊について紹介します。図1は2007年新潟県中越沖地震による被害状況の一例です。地震動を受けて斜面が崩壊し、大量の土砂が国道上に堆積しています。この崩壊の機構と防止策を科学的に明らかにするためには、地盤の動的強さを評価する必要があります。図2はそれを調べるための“繰返し三軸試験”を示しています。調べたい箇所の試料を地盤内から採取した後、円筒形状に成型し、三軸セルと呼ばれる圧力室に設置します。原位置の拘束圧を加えて実地盤の応力状態を再現し、強度や変形性状、間隙水圧などを調べます。結果は、地盤の動的設計や耐震補強の判定に活用されています。

図1 2007年新潟県中越沖地震による斜面崩壊の状況 図2 繰返し三軸試験での試料の設置状況
図1 2007年新潟県中越沖地震による斜面崩壊の状況
図2 繰返し三軸試験での試料の設置状況

威力を発揮する数値解析
積雪寒冷地の融雪期は要注意

 実レベルの挙動の再現は試験だけでは難しいため、コンピュータによる数値解析が威力を発揮します。図3は当研究室で開発した解析法の一例で、凍結を受けた斜面地盤が融解後、降雨を受けて崩壊する過程を示しています。斜面内部に凍土層が残存している場合、雨水の浸透は地盤の表層部に限定され、応力やせん断ひずみの成長を促す様子が見られます。北海道のような積雪寒冷地では、冬期に凍結した地盤が春の融雪期に崩壊する事例が多発しますが、この結果はその斜面崩壊の様子をうまく再現しています。温度変化履歴や強震動による地盤崩壊のメカニズムは極めて複雑なため、このような数値解析による破壊予測が威力を発揮します。

図3 凍結融解・降雨複合型斜面崩壊モデルによる斜面崩壊の数値解析例
図3 凍結融解・降雨複合型斜面崩壊モデルによる斜面崩壊の数値解析例
(8時間で火山灰地盤が凍った後、2時間で融解した後に降雨を受けた場合)
(左)主応力分布(青い長い線が集まっている箇所で大きな応力が発生)(右)最大せん断ひずみ増分の分布(濃い青色の箇所で大きなせん断ひずみが発生)

technical term
間隙水圧 地盤内の地下水にかかる圧力。地盤が地震や凍結融解などの変化を受けると上昇する。