ながれ現象の階層的認識と法則、そして工学
知的興味のアイデンティティを探し求めた先にたどり着いた新分野、分子流体力学。二十一世紀に発展する学問です。 |
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機械宇宙工学専攻 |
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[PROFILE] ◎研究分野/分子流体力学、混相流体力学、生体物理 ◎研究テーマ/気液界面での質量・運動量・エネルギーの分子輸送、 キャビテーションと気泡物理、ドラッグデリバリにおける非線形波動 ◎研究室ホームページ/http://mech-me.eng.hokudai.ac.jp/~info/ |
我々を取り巻く多彩な“ながれ”
各層間をつなぐ階層的認識
“ながれの現象”で通常の流体力学が無力な例はいくらでもあります。人々はそれらを避けて通りますが、そこから新しい学問が生まれます。私が長年携わってきた問題の一つを紹介しましょう。「液体とその蒸気から成る系が何かの原因で変化して、液体が蒸気にまたは蒸気が液体に変化するとき、気液間の境界面で成り立つべき法則を見つけよ」という問題です。これは雲の中での航空機周りのながれ、液体燃料ロケット中での気泡発生、原子炉や火山の蒸気爆発、LNG輸送、雨滴生成等々と密接に結びついており、紛れもない工学の問題です。
その一方で人類の科学史に未解決の難問として一世紀以上にわたって居座り、ノーベル賞受賞者のI・ラングミュアをも惹きつけた科学の問題でもあるのです。
図1に示すように、気液界面は分子動力学、界面近くの蒸気のながれは分子気体力学、界面から離れたところは流体力学で扱えます。これらの力学は個別に生まれて発展を遂げてきました。これらが長さのスケールに基づく階層構造をなすことが明らかになったのは、界面における蒸発・凝縮の問題に取り組んだ結果です。先の5つの例は流体力学で扱われてきましたが、その解決にはながれ現象に対する階層的認識と階層間の接続が不可欠です。そこから原子・分子の界面での離脱・付着情報を界面法則の形に昇華させるための新学問領域が誕生しました。
測定方法と法則を構築し、
次代の応用研究にバトンを渡す
図2は私が開発した分子流体力学実験装置です。実験データは多原子分子にも適用できる分子気体力学の解析と融合され、実験では測定不可能な、理論では未知のミクロ情報が取得できます。図3はミクロ情報の一つである凝縮係数の測定結果です。つい最近まで、凝縮係数には百倍程度のあいまいさがありました。測定値は私たちが解明した界面法則(Phys.Rev.Lett.,2005)と組み合わせて使われます。ここに至るまでに人類は一世紀以上を要しました。工学は単に物を作るための技術学ではなく、正しい認識と法則に従って物を作るための科学でもあるのです。
凝縮係数 | 固体または液体の表面に衝突する分子のうち、実際に凝縮して再び固体または液体の一部となる分子の割合。 |
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