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大気エアロゾルの気候影響を予測し評価する

太田教授

目に見えない大気が教えてくれること。
東アジア温暖化対策の糸口
大気エアロゾルを読み解く。

環境フィールド工学専攻
大気環境保全工学研究室
教授

太田 幸雄 Sachio Ohta
[PROFILE]
◎研究分野/大気保全工学、環境気象学
◎研究テーマ/大気エアロゾルの気候影響および環境影響
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/atmenv/

大気中に浮遊する微粒子
大気エアロゾルの正体とは?

 日本・中国・韓国・台湾を含む東アジア域においては、近年の工業化の進展に伴って大気エアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)が急速に増加しています。この大気エアロゾルは、日射を散乱・吸収することにより、気候に大きな影響を及ぼします。ただしその影響の程度は、エアロゾルの濃度と光散乱特性に大きく依存しています。そのため私の研究室では、これまで、東シナ海域の沖縄(図1)や奄美大島、あるいは海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」(図2)に乗船して、エアロゾルの濃度や光散乱特性、化学組成などの観測を行ってきました。さらに、これらの測定結果に基づいてモデル計算を行うことにより、現在の大気エアロゾルが東アジア域の気候に及ぼしている効果について研究しています。また、今後、中国をはじめとする東アジア各国の工業化が激化するのに伴って、どのような種類の大気エアロゾルがどの程度増加するのかを予測し、その結果、気候にどのような影響を与えるのか、その見積もりを行っているところです。

黄砂とともに多量の
大気汚染物質も飛来

 図3は、2001年4月に奄美大島で観測した大気エアロゾルの1日毎の化学組成を示したものです。特に4月11日から16日にかけて大量の土壌粒子が飛来しています。流跡線解析により、この時期にはエアロゾルが中国大陸北西部からの風によって輸送されてきたことが分かりました。つまりこの土壌粒子は黄砂粒子でした。この時期には、黒い煤粒子や硫酸粒子も大量に飛来し、亜鉛および鉛粒子も高濃度を示していました。これらの物質は、燃焼などの人間活動に伴って排出される代表的な大気汚染物質です。つまり春季の黄砂の飛来する時期に、わが国を含む北部西太平洋域においては、黄砂だけではなく大気汚染物質もまた大量に輸送されてきていることが明らかになりました。これらの汚染物質は、気候影響の他に、土壌に沈着し植物に付着して、生態系に悪影響を及ぼしていくことが考えられます。今後、このような東アジア域における大気汚染物質の広域輸送の解明と対策が、大きな課題となってくるでしょう。

図1 沖縄での大気エアロゾル観測
図1 沖縄での大気エアロゾル観測

図2 海洋地球研究船「みらい」による大気エアロゾル観測
図2 海洋地球研究船「みらい」による大気エアロゾル観測

図3 2001年4月の奄美大島における大気エアロゾルの1日毎の化学組成
図3 2001年4月の奄美大島における大気エアロゾルの1日毎の化学組成

technical term
流跡線解析 風の流れを遡って解析すること。