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砕波が取り持つ大気と海洋の親密な関係

渡部准教授

砕波が運ぶ地球環境のメッセージ。
人間と海洋が共存できる世界を目指して。

環境フィールド工学専攻
沿岸海洋工学研究室
准教授

渡部 靖憲 Yasunori Watanabe
[PROFILE]
◎研究分野/海岸工学、流体力学
◎研究テーマ/砕波の混相乱流、波-構造物相互作用に関する研究
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/ocean

海の波の最期、砕波
水面下には驚きの構造

 海の波がビーチに到達すると、波峰が前方へ突っ込み激しく水飛沫を伴って波が砕けます(図1)。この現象を砕波と呼びます。砕波を経て波は急に乱流化し、砂浜を大きく削りとったり、同時に発生する凄まじい流体力はテトラポッドなど重いブロックを簡単に吹き飛ばしてしまったりと長年沿岸域での人々の生活を脅かせてきました。ビーチで波を眺めていると、一見、波は無秩序に砕けるように見えますが、実は水面下に極めて組織的な回転性流れ(渦)の構造が形成されています。これが海中の生物環境や海上の大気熱環境に大きな影響を与えていることを、乱流数値計算や可視化実験を通して解明してきました。

図1 巻き波砕波のジェットがつくる回転流れ(上)、砕波の飛沫観測の様子(中)と砕波の渦に捕捉された気泡群の水中写真(下)
図1 巻き波砕波のジェットがつくる回転流れ(左)、砕波の飛沫観測の様子(中央)と砕波の渦に捕捉された気泡群の水中写真(右)

波の手で熱や気体が海中へ
海洋の生物環境にも影響

 肋骨構造と呼ばれるこの渦構造は、砕波ジェットの内水面がつくるエアチューブ周りに回転する渦列とそれらに縦に巻き付く縦渦から構成されます(図2)。特にこの縦渦は、その真上にある気体が十分に溶解した水面表層を巻き込んで水中に取り込み、また同時に混入した大量の気泡を渦の中に捕捉し浮上を妨げ気体の溶解を促進するため(図1)、大気から海中へ気体を輸送する主体的役割を果たしています。地球的問題である大気中の炭酸ガス濃度の増加は、このような砕波の物理機構を通して海洋の生物環境へも深刻な影響を与えることになるので、砕波過程を経た気体の輸送速度の予測が重要となります。
 一方、砕波に起因するこの縦渦は砕波ジェットの中で伸張されるため、さらに高速で回転し、その上下の水面を巻き込み最終的にジェットの水面を縦に分断します。このフィンガー状に分断されたジェットは表面張力の影響により最終的に飛沫へと分裂します。つまり、砕波と同時に飛び散る多くの水飛沫もまた、砕波下の渦運動が原因となって発生しています。飛散した飛沫群により気体と流体の界面面積が著しく増大するので、界面を通した熱や水分の輸送が活発になり、海上の熱、湿度環境に大きな影響を与えます。こうした大気-海洋間に形成される複雑な気液二相流中での熱および物質交換にかかわる詳細な物理機構が明らかになり、その高精度な予測に向けた研究を進めています。

図2 砕波の水面形と渦核の分布(渦構造を表す)の数値計算結果(上)、水面直下の組織渦による水面変形と海中への水面の取り込み(下)
図2 砕波の水面形と渦核の分布(渦構造を表す)の数値計算結果(上)、水面直下の組織渦による水面変形と海中への水面の取り込み(下)

technical term
気液二相流 界面をもつ気体と液体が混在し、両者が相互に作用し合いながら運動する流れ。