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生体シミュレーションの実現を図る

横田客員准教授

人体の不思議を明らかにする生体シミュレーション。一人ひとりが最適な医療を受けられる世界を目指して。

人間機械システムデザイン専攻
バイオメディカルシミュレーション講座
客員准教授

横田 秀夫 Hideo Yokota
[PROFILE]
◎研究分野/生体シミュレーション
◎研究テーマ/シミュレーションモデル構築
◎研究室ホームページ/http://www.riken.jp/brict/index.html

コンピュータの中に
人体の設計図を構築

 車の開発において、設計した車を実際に衝突させることなく変形の様子や衝撃力の分散を検証するコンピュータシミュレーションは欠くことができない技術になっています。この技術を用いて、人体の障害の解析や手術前に方式や器具の最適化を図る生体力学シミュレーションが期待されています。この生体力学シミュレーションには、人体の形状計測と組織の硬さなどの力学的特性の情報が必要です。しかしながら、大きな課題は工業製品と異なり、人体には設計図がないことでした。人体の内部の情報を非侵襲的に収集する方法として、医療画像診断装置のX線CTやMRIによるイメージベースドモデリングを利用しました。少しずつ位置を変えた断層画像群から臓器や骨の3次元データを構築することができました(図1)。臓器の領域などを設定して3次元の形状を再構築するソフトウエアを開発し、次に、組織の硬さについて32種類の組織のデータベースを構築しました。これらのツールやデータベースから人体の設計図を完成させ、力学シミュレーションを実現しました。

理想のヒップパッドを検証
個別シミュレーションの時代へ

 図2に老人などの転倒時に大腿骨が骨折するのを防ぐヒップパッドの効果を計算した結果を示します。人体の形状モデルと力学特性データベースの情報を元に、大腿骨にかかる応力を計算しました。ヒップパッドの形状や硬さを自由に変えて解析できることから、ヒップパッドの設計検証に役立つと考えています。他にも、外科手術や内視鏡手術のシミュレーション、血流や運動のシミュレーションと連成した解析等の研究もしています。
 今後は、患者さん個体別のシミュレーションを実現するために、その設計図を自動的に構築する方策を開発する予定です。この研究により、病院で診察した後すぐにコンピュータの中に力学的なモデルが再現され、最適な治療・手術法が求められると考えています。病院で皆さんの個別モデルが構築され、さまざまなシミュレーションが実現する日もそう遠くはありません。将来的には、細胞レベルの解析と組織臓器、全身レベルのシミュレーションを結びつけることを目指して研究を進めています。

図1 人体モデルの構築
図1 人体モデルの構築

図2 ヒップバッドの有無による大腿骨への応力 ヒップパッドがない状態(右)では、大腿骨のくびれている部分が赤く、輪状に応力が集中しているのに対して、ヒップパッドを装着した状態(左)では、応力値が低下し分布が散在していることから骨折の危険度が低下したことが判る。
図2 ヒップバッドの有無による大腿骨への応力
ヒップパッドがない状態(右)では、大腿骨のくびれている部分が赤く、輪状に応力が集中しているのに対して、ヒップパッドを装着した状態(左)では、応力値が低下し分布が散在していることから骨折の危険度が低下したことが判る。

technical term
イメージベースドモデリング 対象物から実際に撮影した画像データを元にして三次元形状のモデルを作る手法。