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ニューロン ―物質・生命・情報―

郷原教授

サイエンスと脳の親密な関係。ニューロンを水先案内人に脳を科学し、ヒトを理解する。

応用物理学専攻
生物物理工学研究室
教授 

郷原 一寿 Kazutoshi Gohara
[PROFILE]
◎研究分野/応用物理学、生物物理学
◎研究テーマ/バイオイメージング、ニューロダイナミクス
◎研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/BioPhysics/

脳が脳を理解する?
神経細胞、ニューロンに迫る

 ワトソン・クリックによる1953年のDNA構造解明を契機として、 生物学の急速な進展は50年以上を経た現在においてもその勢いは留まるところを知らず、さらに大きな発展と新たな展開を見せようとしています。約30億もあるヒトのDNA塩基配列が完全に解き明かされ、一人ひとりの違いが分子の並びの違いとして数量化されるような時代に入っています。しかし、最も身近な存在であるヒトの脳を、我々の脳はどれほど理解できているのでしょうか?
 脳はニューロンと呼ばれる神経細胞を基本素子としています。ニューロンは結合してネットワークを形成し、電気信号のインパルスをやりとりしています。ばらばらの単体ニューロンがネットワークを構築し発達・成長する過程で、遺伝子はどのように働いているのでしょうか?個々のインパルスはお互いにどのような関係でネットワーク中を伝わっているのでしょうか?これらの基本的な問題に対して、先端科学技術を駆使した研究が行われ始めています。

空間と時間の両軸から見る
ニューロン研究の取り組み

 私の研究室では、培養ニューロンに対して空間と時間の広範なスケールに渡る現象の計測・制御を可能とする基盤技術を創出し、脳の基本原理の一端を解明することを目指しています。空間的にはDNAからネットワークに広がるまでの約6桁を、時間的には一瞬のインパルスから成長として認識されるまでの約10桁を対象にしています(図1)。具体的には、ミリメートルからナノスケールの領域を連続して観測するために、遺伝子工学を応用した光学顕微鏡と電子顕微鏡による新たなバイオイメージング方法を研究しています(図2)。また、ネットワーク中を行き交うインパルスを長期間計測するシステムを開発し、それによって得られたデータをもとにカオス・フラクタルなどの複雑系理論による解析を進めています。
 ニューロンは原子・分子から構成される物質であり、DNAを内在する生命であり、ネットワークによって情報を処理および操作する機能を発現します。すなわち、ニューロンを研究することは、物質科学、生命科学、情報科学にまたがる広大な基礎的・応用的領域を研究対象にしていると言えます。

図1 空間と時間の広範なスケールに渡る研究対象 背景は多電極ディッシュ上に培養されたニューロンのネットワーク
図1 空間と時間の広範なスケールに渡る研究対象
背景は多電極ディッシュ上に培養されたニューロンのネットワーク

図2 空間:光学・電子顕微鏡によるイメージング 時間:カオス・フラクタルなどの複雑系理論解析
図2 空間:光学・電子顕微鏡によるイメージング
時間:カオス・フラクタルなどの複雑系理論解析

technical term
ニューロン 脳の基本構成要素。互いに信号を伝達しあうことで脳のさまざまな働きを担う。