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放射線計測技術を活用した肺がん治療装置の開発

金子准教授

患者の健康を願う心は一つ。肺がん治療装置の実現で現場の最前線に立つ医療スタッフをサポート。

量子理工学専攻
量子ビーム応用計測学研究室
准教授

金子 純一 Junichi H. Kaneko
[PROFILE]
◎研究分野/放射線計測、ダイヤモンド・酸化物材料等の合成と評価、医用原子力
◎研究テーマ/身の丈に合った形で人様の御役に立つこと。
◎研究室ホームページ/http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~q16646/

呼吸のたびに腫瘍が上下する
肺がん治療の課題を解決

 放射線治療装置で最も普及しているのは、リニアックとよばれる長さ2m程度の小型加速器を使用した装置で、電子線またはX線によって治療を行います。この装置は放射線科のある大きな病院であればどこでも備えている装置で、がんの治療に広く用いられています。
 放射線治療ではX線や電子線を腫瘍に当てダメージを与える一方で、周囲の正常な組織に与えるダメージを可能な限り低くする必要があります。ところが肺など動きのある臓器に腫瘍がある場合、体を外側から固定しても腫瘍が動くため余計な部分に放射線を当ててしまう問題があります。これを解決するため、呼吸に合わせて放射線を照射したり、腫瘍の近くに金属でできた目印を埋め込んで、目印が所定の位置に来た時に照射を行う装置なども開発されています。

腫瘍に「目印」を食べさせる
高精度な治療装置を開発

 現在、北海道大学医学部ならびに富山工業高等専門学校と協力して図1に示す新しい肺がん用治療装置の開発を行っています。この装置では腫瘍に集まる放射性薬剤を患者さんに投与し、腫瘍に集まった放射性薬剤から放出される放射線を外部から測定する事で、腫瘍が照射すべき位置にあるかどうかを識別します。薬剤は転移がんなどの検査で威力を発揮するPET(陽電子放出断層撮影)と同じFDGを使います。 FDGはブドウ糖の一種で、陽電子を放出する18F(フッ素の一種)が含まれています。成長するがんはエネルギーが必要なためFDGをたくさん吸収します。FDGから放出された陽電子が周囲の電子と結合すると、消滅γ線という放射線を180度反対方向に2本放出します。この放射線を外から測定する事でがんの位置を特定します。
 図2は人間の胸部を模した水ファントムの中に腫瘍を模擬した放射線源を置き、外部に設置した放射線検出器で放射線源が所定の位置に来た時、レーザーダイオードの光で照射する様子をビデオ撮影し、計数値、源線位置、照射のタイミングから計測回路の性能評価を行った模擬実験の様子です。このような実験と計算に基づき装置の設計を行い、専用計測回路の要素技術開発も進めています。

図1 開発中の放射線治療システムの概念図
図1 開発中の放射線治療システムの概念図

図2 水ファントムと放射線源を使用した模擬実験
図2 水ファントムと放射線源を使用した模擬実験

technical term
消滅γ線 陽電子と電子と結合すると、E=mc2の式に従い電子の重さに相当するエネルギーをもつ光2本を180度反対方向に放出する。