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最先端細胞バイオメカニクス研究が疾病原因を解明する

大橋教授

細胞バイオメカニクスやMEMS技術、工学の英知が医療・診断技術に幅広く貢献しています。

人間機械システムデザイン専攻
マイクロサーマルマネージメント研究室
教授

大橋 俊朗 Toshiro Ohashi
[PROFILE]
◎研究分野/バイオメカニクス、バイオMEMS
◎研究テーマ/細胞の力学応答機構の解明、バイオMEMS技術による細胞、計測デバイスおよびバイオチップの開発
◎研究室ホームページ/http://leaf-me.eng.hokudai.ac.jp/LabHP/index.htm

血管の内皮細胞から
動脈硬化症の原因を解明

 生体内において細胞は複雑な力学環境に常にさらされており、細胞の力学応答機構がその部位の疾病と深く関係していることが近年の細胞バイオメカニクス研究により次第に明らかになってきました。例えば、血管の内腔面には内皮細胞という単層の細胞が存在しており血管径の調節、血栓の形成抑制、物質透過の調節など多様な機能を有しています。血管の代表的な疾病である動脈硬化症は血管の分岐部や曲がり部で発症しやすく、内皮細胞が力学刺激を受け、その結果血液の流れが変化し、内皮細胞の機能に変化をもたらし、病変の発生に至ると考えられています。実際に内皮細胞に流れによるせん断応力を負荷すると、細胞は流れの方向に伸長・配向します(図1)。このような内皮細胞の力学応答機構を調べることにより動脈硬化症の発生・進展を解明でき、治療法の開発や予防医学に貢献できる可能性があります。

MEMS技術が導く
高精度・高効率の細胞診断

 工学技術であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を細胞バイオメカニクスの研究や新しいバイオチップの開発に役立てることができます。例えば、直径が数μm程度の突起状マイクロアレイを備えるシリコーン製膜基質を作製し、その上に細胞を培養することで細胞が発生する力を検出することができます。この力は細胞牽引力と呼ばれ、細胞が基質に接着する力を示し、細胞の接着のみならず増殖や移動に大きな役割を果たしています。また、図2に示すように単一細胞を用いた新しい細胞診断用バイオチップの開発を行っています。マイクロポンプやマイクロバルブを組み込んだマイクロ流路を配置することにより、1辺数百μm程度のマイクロウェル内に培養した特定の細胞に対して選択的なバイオアッセイを行うことができます。これにより、少量の腫瘍細胞による同時複数の細胞診断が可能となり、より高精度・高効率な細胞診断へと向かうことが期待されます。

図1 力学刺激に対する内皮細胞の応答性
[reference]
[1] Y. Sugaya, N. Sakamoto, T. Ohashi, M. Sato: Elongation and Random Orientation of Bovine Endothelial Cells in Response to Hydrostatic Pressure: Comparison with Responses to Shear Stress. JSME Intl J, Ser C, 46 (4), 1248-1255, 2003
図1 力学刺激に対する内皮細胞の応答性

図2 細胞診断チップの開発
図2 細胞診断チップの開発

technical term
バイオアッセイ 細胞、たんぱく質、遺伝子などを対象とした生化学的解析手法。近年ではMEMS技術を利用した解析デバイスの開発が盛んである。