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がん放射線治療のための効果予測シミュレーション技術

但野教授

がん細胞を狙い撃つ放射線治療のシミュレーション技術で現代医療に貢献したい。

人間機械システムデザイン専攻
バイオメカニカルデザイン研究室
教授

但野 茂 Shigeru Tadano
[PROFILE]
◎研究分野/バイオメカニクス、医療福祉工学、画像診断工学
◎研究テーマ/生体骨組織応力検出法、骨組織の力学特性と加齢化現象、骨組織レーザー接合、歯牙組織の構造と力学特性、MRIによる臓器硬さ計測法、生体軟組織のTriphasic理論、放射線癌治療simulation、動物膝関節摩擦係数測定法、IC sensorによる歩行解析、表面筋電位による手指動作筋測定システム、等
◎研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/biomech/

がん周辺の正常組織を守る
効果的な放射線治療とは?

 現在日本では国民の2人に1人ががんを患い、3人に1人ががんで亡くなると言われており、がん対策は現代医療の急務となっています。がんの代表的な治療法の一つに放射線治療があり、身体への負担が少なく、高齢者や体力の低下した患者にも適用できるという優れた特徴を持っています。
 放射線治療では、放射線のエネルギーでがん細胞中の主にDNAにダメージを与え、がん細胞を死滅させます。放射線のエネルギーを高くするとより多くのがん細胞を死滅させることができますが、それに伴って腫瘍周辺の正常組織が受けるダメージも大きくなってしまいます。腫瘍周辺の正常細胞のダメージを低く抑え、かつがん細胞へは多くの放射線エネルギーを与えて効果的に腫瘍を縮小させることが重要です。現在の放射線治療では、放射線の強さや当てる方向などを工夫することで腫瘍に多くのエネルギーを集中させますが、最適な照射方法を決定することは簡単ではありません。このとき、もし放射線治療による腫瘍の縮小のシミュレーションができれば、効果的で副作用の少ない治療法を決定する上で非常に有効な情報となります。

シミュレーションを応用した
治療技術の開発に挑む

 そこで私たちは放射線治療のシミュレーション技術の開発に取り組んでいます。CTなどの医療用画像から腫瘍の三次元形状情報を取得し、コンピュータ上に腫瘍を再現します(図1)。コンピュータには放射線を当てた際に腫瘍がどのように小さくなるかを表す関係式があらかじめ入っており、さまざまな照射条件の下での腫瘍の減少、すなわち治療効果をシミュレーションすることが可能です。計算には有限要素法という手法を用います。現在、北海道大学病院放射線科と共同で、実際の患者さんの治療データを用いてこの手法の検証を行っています。将来的にはこのシミュレーション手法と放射線治療システムを融合させた放射線治療効果予測システムの実現を目指しています(図1)。このシステムは治療効果の予測結果に基づいて最適な治療条件を決定し、放射線治療へ反映させることを目的としています。

図1 効果予測に基づいた放射線治療
図1 効果予測に基づいた放射線治療

technical term
放射線治療 放射線をがん細胞に照射して縮小あるいは消滅させるがん治療の代表的な手法。通常、外科手術や化学療法と併用して行われる。