
卒業生コラム
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ナノフォトニクスのスペシャリストに富士フイルム株式会社 |
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[PROFILE]
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ナノスケールの光学現象
「黄金に輝く金にナノサイズの細工を施すと、さまざまな色の輝きを放つ金属“カメレオンメタル”(図1)となる。」
この現象が、私が最初に感動した“ナノスケールの光学現象”でした。これは、金の表面にナノスケールの穴を作ることで、光と多数の金属自由電子の結合励起状態である“プラズモン”が発生する状態になり、そのプラズモンが発生する光の波長が穴の大きさによって異なるために、光の色が異なる色を示すのです。
当時、私は博士課程の学生で、海外で博士研究員(ポストドクター)として研究することにあこがれており、その研究資金を得るための研究計画書を書いていました。その受け入れ先の研究室で扱っていたのが、このカメレオンメタルでした。自分の研究で金属を取り扱っていたにもかかわらず、金属にそのような現象が起こることを私は全く知らず、目から鱗が落ちるような思いでした。その後、運良く研究計画書が審査を通り、2年半以上の英国研究生活を送ることができました。

図1 金のカメレオンメタルの光学
顕微鏡像(穴の直径は数百nm)
海外研究生活
海外での研究はとても充実したものでした。カメレオンメタルは、ナノサイズの穴の大きさをそろえ周期的に並べると、とても変わった特性を示すことが分かりました。私は北大で培った技術を応用してそれを定量的に解析するための装置を開発し、そのナノ周期構造を持つカメレオンメタルが、“プラズモニック結晶”としての性質を持つことを明らかにしました。そしてプラズモニック結晶のさまざまな光学特性を明らかにし、これにより多くの業績を残すことができました[1-3]。このとき学生時代に学んだことは本当に財産だと実感しました。この経験から、私は最先端の“ナノスケールの光学現象”に触れる機会を多く持ち、どんどん魅了されていきました。
[1] T. A. Kelf, Y. Sugawara et al., Phys. Rev. Lett. 95, 116802( 2005)
[2] Y. Sugawara, T. A. Kelf et al., Phys. Rev. Lett. 97, 266808( 2006)
[3] R. M. Cole, Y. Sugawara et al., Phys. Rev. Lett. 97, 137401( 2006)
富士フイルムで
帰国後、私は富士フイルムの解析技術センター(以下、センター)に入社しました。富士フイルムはデジタル化の波に押され、絶対的な主力製品だった写真フイルムに変わる製品を模索している時期でした。そのため、2006年4月に新たに研究・開発の中核基地として東京ドーム一個分強の広さを持つ“富士フイルム先進研究所”(図2)を開設するなど、研究にとても力を入れており、研究者には追い風な時期でもありました。
私が所属しているセンターでは大きく分けて2種類の仕事があります。一つは社内の他部署から依頼を受け製品および製品化への問題解析を行う応用的な仕事、もう一つは将来必要になるであろう解析技術を構築する基礎的な仕事です。私は、自分の知的好奇心を満たす基礎研究も、人の役に立つ応用研究も両方やりたかったので、理想的な職場でした。
現在の私の仕事の一つは、ナノスケールの光学現象を用いた科学技術である“ナノフォトニクス”の解析技術を構築することです。ナノフォトニクスはまだ発展途上ですが、近い未来に多くの分野で光をナノ領域で自在に制御し応用する時代が来るでしょう。その時に世界に先駆けたナノフォトニクス製品の開発指針の決定や問題解決をするための解析技術を今から構築しています。またそれと同時に、研究者として自分が世界で初めて見るナノスケールの光学現象を追い求めていきたいと思います。
図2 富士フイルム先進研究所