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双安定ナノスケールマグネット

足立准教授

ナノテクノロジーは応用物理の出発点。目に見えない電子と向き合うナノの世界を究めたい。

応用物理学専攻
半導体量子工学研究室
准教授

足立 智 Satoru Adachi
[PROFILE]
◎研究分野/ナノスケール光物性
◎研究テーマ/半導体ナノ構造のスピン物性とその応用
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/semi/index.html

電子は小さな磁石 
スピンの働きに着目

 身のまわりの家電製品は電子の動きをコントロールすることで動いています。信号で交通の流れをコントロールするように、電子のコントロールが簡単に上手にできる環境が半導体です。そこでは電子が電荷を持っていることが重要で、少数であれば外からの電場で上手に操ることができます。今、世界中の大学で、このような電子のもう一つの特徴、“スピンを持つ”ことに着目した研究が精力的に進められています。“スピン”とは簡単に言えば、電荷が自転していることでつくりだされる磁場のことです。つまり電子は小さな磁石と言えます。磁石は外から磁場をかけると動かすことができます(方位磁石が地球の磁場の方向を向くのと同じです)。  スピンは電子だけが持っているわけではありません。原子核(陽子・中性子)もスピンを持っています。ただしスピン、すなわち小さな磁石のN極とS極がバラバラな方向を向いていては全体で磁石の働きをしないため、双安定が大切になります。

ナノスケールマグネットで 
未来の量子コンピュータを実現

 私の現在の研究テーマは、「半導体単一量子ドットにおける核スピンの双安定特性とそれを用いた電子g因子制御」です。半導体量子ドットとはナノメートルの大きさの水滴のような形をした半導体(図1)です。1つの量子ドットは1~10万個の原子で構成されています。それらの原子核スピンを光で数10%ほど一方向にそろえると強力な磁石ができます。
 実際には外部から光を照射することでドット内にスピンの良くそろった電子が生成され、その電子と核との弱い相互作用を通じて核スピンがそろっていきます。したがって光の電場の振動方向(偏光)を変えることにより核スピン集団のそろい方、すなわち磁石の強さを制御することが可能です(図2)。このように偏光を微妙に変えることによって、急激に核スピンをそろえたり、バラバラにしたり、また注目しているドット(QD1)にだけ大きな磁場をつくることができます。実験はまだ基礎研究段階ですが、このようなナノスケール磁石(ナノスケールマグネット)を用いて、電子が感じる磁場を制御することによって量子コンピュータへの応用を研究しています。

図1 自己集合半導体量子ドットとメサ構造
図1 自己集合半導体量子ドットとメサ構造

図2 隣合う2つの量子ドットの1つだけに生成した核磁場
図2 隣合う2つの量子ドットの1つだけに生成した核磁場
~100 μeVの変化は~4.7 T(テスラ)の磁束密度に対応する。

technical term
量子ドット ナノスケールで電子を三次元的に閉じ込めた構造。