特集TOPへ

ナノの世界をのぞく

朝倉 清高 教授

見る技術を高め、ナノの世界を明らかに。
触媒研究の成果を活かして物質科学の明日を築く。

量子理工学専攻
ナノ材料科学講座
教授 

朝倉 清高 Kiyotaka Asakura
[PROFILE]
◎研究分野/表面化学、放射光分光学 
◎研究テーマ/化合物表面の化学と構造、新表面解析手法の開発、表面ナノ機械
◎研究室ホームページ/http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~q16691/index.html

ナノの世界を照らす光で 
原子の正体を見定める

 0.000000001m=1nm(ナノメートル)の世界は、原子、分子とその集合体が活躍する世界です。その世界で起こっていることを直接観測することが、ナノ材料を開発し、新しい機能を見いだす上で不可欠な要素となります。小さいものを見るためには顕微鏡が必要です。普通の顕微鏡は、ミクロンからやっとナノの領域に入るくらいの分解能と倍率しかありません。これは、波長限界と呼ばれるもののためで、光の波長程度の大きさのものしか見ることができません。それでは、もっと小さいものを見るにはどうしたらよいでしょう?
 答えはもっと波長の短いものを使えばよいのです。高速に加速された電子や波長の短いX線を用いることで、より細かいものが見えてきます。放射光(シンクロトロン放射)は、電子を光の速度で加速したときに放出される強力なX線を含む光です。このX線を物質に当てると元素ごとに異なる波長のX線を吸収します。これを利用すると物質中の元素を同定しながら物質構造を原子レベルで知ることができます。

触媒研究の躍進に欠かせない 
夢の顕微鏡完成を目指して

 図1は、「偏光全反射蛍光XAFS法」という特殊な方法で測定したTiO2(110)表面のCuの構造です。TiO2(110)表面は光触媒などにも使われる重要なものです。この表面にCuを乗せるとメタノール合成反応などの触媒反応が起こります。こうした触媒反応において、どういう構造のCuが活性であるのかを調べることが触媒開発には欠かせません。この手法を用いるとCuがTiO2(110)表面にどういう形で乗っているのかが一目で分かります。

図1 偏光全反射蛍光XAFS法(a)とTiO2(110)表面上のCu3(b)
図1 偏光全反射蛍光XAFS法(a)とTiO2(110)表面上のCu3(b)

 図2は、X線を用いた「光放出電子顕微鏡」です。普通の電子顕微鏡と違い、X線を使って放出される電子を分析しながら拡大するので、表面の元素の分布を画像にすることができます。
 波長の短い波を使う方法以外に、針の先をとがらせて原子1個分の細さにし、表面をなぞることで原子像を得る「走査探針顕微鏡」があります。これに元素分析ができるX線を用いると、表面の原子を1つ1つ同定しながら顕微像を得ることができるようになるはずです。これを「XANAM」と名付け、近い将来1個1個の原子を同定できる夢の顕微鏡の実現のため、頑張っています。

図2 光放出電子顕微鏡装置(a)とAuを選択した場合のイメージ(b)、Taを選択した場合のイメージ(c)
図2 光放出電子顕微鏡装置(a)とAuを選択した場合のイメージ(b)、Taを選択した場合のイメージ(c)
コントラストが反転しているのが分かる。

technical term
放射光 光速に近い早さの荷電粒子が加速度運動する際に放出される電磁波。