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サイズの異なる反応物に適した機能性材料 -「多孔体」をつくる

荒井 正彦  教授

触媒反応が起こる反応場。細孔をコントロールし環境にやさしい合成化学を推進したい。

有機プロセス工学専攻
化学反応工学研究室
教授

荒井 正彦 Masahiko Arai
[PROFILE]
◎研究分野/化学工学、グリーンケミストリー、触媒反応工学
◎研究テーマ/機能性多孔質材料の合成、超臨界流体(環境流体)を用いた多相系触媒反応、二酸化炭素を原料・促進剤とする有機合成、環境浄化触媒
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/catal/contents/new/

排ガスの浄化も脱臭剤も 
触媒・吸着剤として多孔体が活躍

 自動車の排ガス浄化に活用される触媒や、脱臭剤内の吸着剤として利用されている材料は、「多孔体」です。その中には分子と同じ程度の大きさの孔(細孔)がたくさん開いています。孔は大きさによってミクロ細孔(~2nm)、メソ細孔(2~50nm)、マクロ細孔(50nm~)と呼ばれています(1nm= 1/1,000,000,000m)。
 「ゼオライト」などのミクロ多孔体を触媒として用いると、小さな分子だけを選り分けて反応させることができます。一方で、大きな反応分子に対してはメソ多孔体が必要です。多孔体材料の研究は化学工業の根幹を担う重要な役割を担っています。

結晶の成長をコントロール 
触媒研究の進展に貢献

 細孔は、結晶の中と結晶の間にあります(図1)。前者の結晶内細孔の大きさは、結晶をつくる原子の配列の仕方で決まり、細孔の大きさ(細孔径:入口の大きさ)はみな同じです。後者の結晶間細孔は、結晶(積み木)の大小と結晶の配列(積み具合)によって大きさが異なり、結晶の合成方法や条件を変えて調節します。大きな反応物を相手にするときは、大きな結晶間細孔を利用します(図2)。
 結晶の大きさと配列を調節するひとつの方法は、合成するときに界面活性作用を有する添加剤(石鹸分子のようなもの)を用いることです。成長する結晶の周囲にくっついて成長の方向と速さを調節し、結晶同士の集まり具合を調節します。この方法では、ひとつの材料の中に細孔径の異なる細孔がつくられますが、できるだけ細孔径のそろった材料をつくるようにいろいろ工夫しています。
 多孔質材料は多種多様ですが、私の研究室では、スメクタイトという名前で分類される材料を合成しています。メソ細孔の大きさや化学組成を変えて触媒機能を調節し、工場排ガスなどに含まれている二酸化炭素の有用有機化合物への化学変換(化学的固定化)、合成ガス(水素と一酸化炭素の混合物)からのS、Nフリー液体燃料の合成、バイオオイルからの水素燃料製造などグリーンケミストリーの基礎研究を進めています。

図1 多孔質材料の構造
図1 多孔質材料の構造

図2 細孔直径の異なる触媒A、B、Cによる化学反応
図2 細孔直径の異なる触媒A、B、Cによる化学反応
反応物の分子サイズに対し、A、Bは小さく、Cが最適である例を表している。

technical term
グリーンケミストリー 物質を設計、合成、利用する際に、有害な反応物の使用と有害な副生成物の排出をなるべく抑える化学-持続可能な環境を実現する基本的な考え方。