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バイオナノファイバー

田島 健次 准教授

未知の可能性を秘めた
バクテリアセルロースの謎を解明し
機能性材料を開発したい。

生物機能高分子専攻
再生医療工学研究室
准教授

田島 健次 Kenji Tajima
[PROFILE]
◎研究分野/遺伝子工学、分子生物学、高分子化学
◎研究テーマ/バイオポリマーの合成機構解明と遺伝子工学的手法を用いた新規機能性高分子材料の創製
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/tre/

植物由来のセルロースとは違う 
バクテリアセルロースの不思議

 セルロースは自然界に最も豊富に存在する高分子です。バクテリアによって合成されるセルロースは、バクテリアセルロースと呼ばれ、植物由来のセルロースとは異なるユニークな構造と性質を持っています。植物を含めてセルロースの合成機構には不明な点が多く、セルロースを合成するバクテリアは、合成機構解明のためのモデル系として利用されています。私たちはその合成機構を解明するとともに、新しい応用技術についての検討を行っています。

デザートから先端材料まで 
バクテリアセルロースの謎に迫る

 “ナタデココ”というデザートを食べたことがあるでしょうか(図1A)?“ナタ”は液上に浮く膜、“ココ”はココナッツの意味で、ココナッツ水の上にできる膜がナタデココ、バクテリアセルロースです。植物由来のセルロース繊維の太さが数10μmに対し、バクテリアセルロースの太さはその1000分の1の数10nm程度です。バクテリアは、1本のナノファイバーを合成・排出し、それに伴って移動していきます(図2C)。最終的に図1Bに示すような緻密なネットワーク構造を有するゲル状の膜が作られ、あの独特の食感が生み出されるわけです。このユニークな構造と物性を利用した応用例にスピーカーの音響振動板や人工血管、創傷被覆材、UVカット材、高強度透明材料などがあり、デザートから先端材料まで幅広く応用されています。
 バクテリアセルロースは細胞壁に存在する合成装置(セルロース合成酵素複合体)によって合成されています(図2D、E)。全体構造は今のところ明らかにされていませんが、数種類のタンパク質が複数集まっていると予想されています(図2E)。最近、私たちはこの合成装置の部品の一つであるタンパク質の立体構造解析に成功しました。このタンパク質は環状構造で、環内側にさらに4つの穴が存在し(図2F、G)、その穴をセルロース鎖1本あるいは2本が通っていることがわかりました。詳細は現在検討中ですが、セルロースをスムーズに合成・排出するための重要な役割を担っていると考えています。今後さらに解析を進め、セルロースの合成メカニズムを解明し、その知見を生産性の向上、循環型社会に貢献できる材料開発などに応用したいと思っています。

図1 バクテリアセルロースの一種、ナタデココ
図1 バクテリアセルロースの一種、ナタデココ
拡大すると無数のナノファイバーで構成されていることが分かる。


図2 バクテリアセルロースの合成機構
図2 バクテリアセルロースの合成機構

technical term
セルロース 植物の細胞壁の主成分である多糖類物質。バイオエタノールの原料としても注目を集めている。