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ナノの空間で機能性材料を合成する

幅崎教授

世界が注目するナノテクノロジー。物質の新しい機能を呼びさまし未来を切り拓きたい。

物質化学専攻
界面電子化学研究室 
教授

幅崎 浩樹 Hiroki Habazaki
[PROFILE]
◎研究分野/機能材料化学、電気化学、材料表面化学 
◎研究テーマ/アノード酸化による機能性酸化膜の創製、機能性ナノ材料の鋳型合成
◎研究室ホームページ/http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/elechem/

ナノサイズの鋳型を自在に操り 
高機能カーボン材料を合成

 金属、酸化物、半導体などさまざまな固体物質をナノメートルのサイズにまで小さくすると、バルクの固体では見られない新しい現象や機能が現れてきます。今、このようなナノサイズの物質を自在に操り、または物質をナノレベルで加工して、これまでにない優れた機能を発現しようというナノテクノロジーが世界中で注目されています。
  ナノサイズの材料を合成する方法の一つとしてナノサイズの孔を持った材料を鋳型にする方法があります。ナノサイズの孔を持った材料を作るのは、実は簡単なのです。アルミニウムの板を硫酸やシュウ酸などの酸性溶液中で電気化学的に酸化(アノード酸化)すると、自然と数10nmから数100nmのサイズのシリンダー状の孔が無数に空いた酸化アルミニウムの膜(アノード酸化アルミナ膜)ができます(図1)。アノード酸化の条件を調節することにより孔を蜂の巣状にきれいに配列させたり、孔の大きさを任意に変えることもできます。この孔の中で物質合成し、いろいろな直径のナノファイバーやナノチューブを簡単に作ることができます。 

図1 硫酸中で形成した多孔質アノード酸化アルミナ
図1 硫酸中で形成した多孔質アノード酸化アルミナ

リチウムイオン二次電池を支える 
カーボン材料のパワーに期待

 ナノサイズの孔の中での物質合成は簡単にできます。アノード酸化アルミナ膜と高分子の粉を混ぜて、高分子が酸化しないようにアルゴンガスのような不活性ガス中で1000℃くらいまで加熱して合成します。高分子は350℃くらいで液状物質に変わり、自然と数10nmの径の孔の中に入っていき、さらに加熱すると熱分解が進み、カーボンナノファイバーが孔の中に生成されます(図2)。興味深いのはそのカーボンは配向しており、炭素の六角網面がファイバー軸方向に積層した構造をとることです。これは液状物質中の分子が孔壁を構成するアルミナと相互作用する向きと関係すると考えられ、孔壁の物質を変えるとカーボンナノファイバーの配向も変わります。
 カーボン材料はリチウムイオン二次電池の負極として重要な材料です。私の研究室で、径の異なるカーボンナノファイバーを用いて負極特性を評価したところ、径が細いほど高速充放電に適した材料になることを実験的に初めて示すことができました。そのような材料は、自動車などにリチウムイオン二次電池を応用する際に必要となります。

図2 アノード酸化アルミナを鋳型として合成したカーボンナノファイバー
図2 アノード酸化アルミナを鋳型として合成したカーボンナノファイバー

technical term
カーボン
ナノファイバー
炭素繊維の一種。繊維径が大きいカーボンファイバーと区別するため、カーボンナノフィラメントと呼ぶこともある。