特集05

「熱」を蓄える材料
Material for “heat” storage

あらゆる技術開発を貫く共通課題、《熱の制御》に物質からアプローチ 大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター エネルギーメディア変換材料分野 准教授 能村 貴宏

[PROFILE]
○研究分野/エネルギー化学工学、エネルギー貯蔵材料、蓄熱材料
○研究テーマ/次世代高温蓄熱・熱輸送技術の確立
○研究室ホームページ/http://anergy.caret.hokudai.ac.jp/

Takahiro Nomura : Associate Professor
Laboratory of energy media
Faculty of Engineering Center for Advanced Reserch of Energy and Materials
○Research field : Energy chemical engineering; Energy storage material
○Research theme : Establishment of advanced thermal energy storage and transportation technology for high temperature application
○Laboratory HP : http://anergy.caret.hokudai.ac.jp/

暮らしと産業を支える蓄熱技術
新たな「潜熱蓄熱材料」に注目

私達は様々な物質に熱を蓄え、利用しています。熱を蓄える物質、材料のことを蓄熱材と呼びます。例えば、家庭用温水器の貯湯槽では水(温水)を蓄熱材として熱を蓄えています。また、オール電化の家庭に設置されている蓄熱式暖房機では、レンガを蓄熱材として使用しています。これら2つは、物質(水またはレンガ)の比熱と温度差を利用して熱を蓄える点で共通性があります。このような原理の蓄熱技術のことを顕熱蓄熱と言います。この顕熱蓄熱技術は産業用熱風製造装置(熱風炉レンガの顕熱として蓄熱)なども有名で、熱利用における根幹技術の一つです。

図1 図1 開発中のアルミニウム合金潜熱蓄熱材のマイクロカプセル Figure1:Microencapsulated Al alloy as a latent heat storage material(under developing).

成熟した技術とも言える顕熱蓄熱技術ですが蓄熱密度が低い(=蓄熱量が少ない)ことが課題となっており、新たな原理に基づく蓄熱材料が期待されています。それが「潜熱蓄熱材料」です(図1)。潜熱蓄熱とは、物質が固体から液体へ、あるいは液体から固体へと変わる固液相変化潜熱を利用する蓄熱のことです。固体から液体へ融解するときに蓄熱し、液体から固体に凝固するときに放熱します。潜熱のエネルギーは比熱に比べて10倍以上大きく、より超高密度の蓄熱が可能になります。実はこの潜熱蓄熱の原理は、私達の生活ですでに一般的に利用されています。それは氷(=水)です。氷は0˚Cの熱を蓄える優れた潜熱蓄熱材料なのです。

次代を支える「熱い氷」
アルミニウムの新たな顔

私達の研究グループでは、300˚C以上の高温度域で利用可能な潜熱蓄熱材料、いわば「熱い氷」を研究しています。特にアルミニウムをベースとした物質を最新の潜熱蓄熱材料として提案しています。軽量構造材料であるアルミニウムは、600˚C以上の熱を高密度(氷の約3倍)に蓄えられる潜熱蓄熱材料としても極めて有望な性能を持つことがわかりました。この最先端の蓄熱材料は、プラントにおける省エネ技術のほか、自動車の省エネ設備や太陽熱利用技術としても注目されており、次世代の蓄熱技術基盤となりうる可能性があります(図2)。

このように身近にありふれている物質も見方を変えることで、熱を高密度に蓄える最先端の材料に変身します。物理現象を人間の知恵で応用し使えるものにすることこそが、工学の使命だと感じます。

図2 図2 潜熱蓄熱が切り拓く次世代の蓄熱技術基盤の構想 Figure2:Scheme of an advanced technical basis of thermal energy storage developed by latent heat storage .
technical term
太陽熱利用技術 太陽熱発電や太陽熱を利用した燃料製造などの太陽熱を主要熱源とする技術。