特集01

ソフトマターのレオロジー
Rheology of soft matters

餅、お菓子、イカ、液晶、ヒトのからだ…
柔らかさが引き出す複雑さが面白い! 応用物理学部門 ソフトマター工学研究室 准教授 藤井 修治

[PROFILE]
○研究分野/ソフトマターの物理、生物物理
○研究テーマ/ソフトマターのレオロジー、細胞のレオロジー
○研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MOLPHY/home/

Shuji Fujii : Associate Professor
Laboratory of Soft Matter Physics
Division of Applied Physics
○Research field : Soft matter physics, Biophysics
○Research theme : Structural rheology of soft matter, Microrheology of living cell nucleus
○Laboratory HP : http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MOLPHY/home/

餅からわかる分子の運動
柔らかい物質のレオロジー

我が家は餅が好きで、結構食べるんです。正月とか関係なく。あのもちもちとした食感がたまりません。ゆっくり餅を引っ張ると結構伸びますが、速く引っ張るとそれほどでもない。餅の伸びかたが引っ張りかたによって変わることは、餅を食べたことがある皆さんならよくご存知だと思います。実はこれ、餅の中のデンプンの分子の運動と関係があり、このように力を加えたときに変形・流動する対象物の硬さと柔らかさを定量的に評価・解析する手法を、レオロジーといいます。

ちなみに我が家はプリンなどのお菓子もよく食べる家でして、寒天(高分子)やチョコ(脂質)、ヨーグルト(コロイド)などもそれぞれを専門用語に置き換えていくと、科学のフレーバーがしてきます。明確な定義はありませんが、おおよそ柔らかい物質をソフトマターと呼びます。私の主な研究テーマは、そんな柔らかい物質群のレオロジーです。

成長するぐにゃぐにゃ
正体はミエリンだった!

石鹸(界面活性剤、脂質の仲間)を水に溶解させると、ミセルという構造ができます。このミセル水溶液の温度を上げると二つの液体に相分離し、片方の液体だけが液体ながら固体の性質を持つ液晶になることがわかりました。液晶も立派なソフトマターですが、意外にもそのレオロジーは基礎研究が少ないのです。この液晶を高温で放置すると、界面から沢山の突起物がわんさか生え、みるみる成長します(図1)。調べると、脊椎動物の神経細胞の軸索を取り囲むミエリンといわれる構造と同じであることがわかりました。

さらに、このヘンな現象を調べてミエリンにたどり着く過程で、ヤリイカの軸索が巨大であることから神経系の実験にイカがよく使われていたこともわかりました。なんとイカの内臓から液晶も作り出せるらしく、ソフトマターへの興味は深まるばかりです。ソフトマターのレオロジーの学会に出席すると、「それもレオロジー?」と驚かされるような研究ばかりで、飽きることがありません。近年はソフトマターの集合体である我々ヒトの身体に着目した研究も、盛んに行われています。

図1 図1 界面活性剤の液晶相の界面からミエリンが成長する様子 Figure1:Myelin growth from surfactant lamellar phase droplet.
technical term
レオロジー 物質の変形と流動を研究する物理学の分野。生体内での細胞液や血液の流動、土石流や地震の際の砂質土壌の流動化など幅広い分野の現象を取り扱う。