工農研究特集 学部を超えて拡大する工学研究:工農連携のフロントランナー

スマートスーツ®で農作業の軽労化®
Smart Suit : KEIROKA® Assistive Suit for Agricultural Works

農業大国、北海道は工農連携の理想のフィールドです 情報科学研究科システム情報科学専攻 ヒューマンセントリック工学研究室 准教授 田中 孝之

[PROFILE]
○研究分野/ウェアラブルロボット、アシストスーツ、軽労化技術
○研究テーマ/作業支援のためのアシスト技術・計測技術
○研究室ホームページ
https://ssc-s02.ssi.ist.hokudai.ac.jp/hce/

Takayuki Tanaka : Associate Professor
Laboratory of Human-centric Engineering
Division of Systems Science and Informatics
○Research field : Wearable robot, Assistive suit, KEIROKA assist technology
○Research theme : Assistive and measurement technology for labor support
○Laboratory HP :
https://ssc-s02.ssi.ist.hokudai.ac.jp/hce/

農業や介護で働く人を助ける
「軽労化」スーツ

「スマートスーツ」というパワーアシストスーツを開発し、実際に北海道の農業現場で活用されています。

パワーアシストスーツと聞くと、人の力を何倍にもしてくれる装置を想像する人が多いのではないでしょうか?実際にそのような装着型ロボットも開発され、実用化が進んでいます。

しかしその一方で、人の力でできるものの、疲労や腰痛が問題になっている作業も多く、北海道の農家にアンケートを取ったところ、9割以上の農家が腰に不安を抱えていました。その原因は、重量物の持ち上げよりも、中腰姿勢を維持したまま農作物を収穫するなど、力の要らない作業が半数以上でした。こうした人の力でできる作業を、より楽にし、疲労を軽減することを「軽労化」と呼びます。我々が開発するスマートスーツは、農業や介護の現場で人の巧みな作業を支える軽労化スーツです。初期の研究段階では、柔らかな弾性素材を補助力源とし、弾性材と小型モータとを組み合わせたアシストメカニズムを開発しました。人の動作を認識するためのセンサが内蔵され、動作パターンや作業姿勢に応じて、サポートする力を最適化します。装置重量が2.5kgと軽量で、30秒程度で着用できて、ボタン1つで気軽に使えます。酪農現場で実験したところ、腰と脚の負担を3~5割軽減できることを確認しました(図1)。

図1 図1 スマートスーツの酪農現場での実証試験 Figure1: Verification test of smart suit on dairy operation.

人にやさしいスーツに進化
道内農家で2千着を試験的に活用

次に我々が開発した「スマートスーツ・ライト」は、弾性素材のみで腰をサポートする軽労化スーツです。腰や脚の運動に関わる筋力を補助するだけでなく、腰を曲げた際にコルセットのように腰を締めつけ、体幹を安定化することもできます。また、デジタルヒューマンという情報ロボット技術を使って、人の動作を最適に支えるように弾性材の配置や硬さを設計しています。(株)スマートサポートより試験販売しており、富良野のスイカ農家などで2千着が活用されています。「これがあるのとないのとでは全然違う」という着用した農家さんからの嬉しい声もいただいています(図2)。

スマートスーツの開発には農業現場との連携が必要不可欠でした。今後も農工連携によって軽労化技術の研究開発をさらに進めていきます。

図2 図2 3次元SLAMによる環境マッピング Figure2:Mapping result using 3D-SLAM technique
technical term
スマートスーツ/軽労化 北海道大学発のベンチャー企業、株式会社スマートサポートの登録商標。

スペシャル対談

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