特集04

固体燃料電池:
イオニクス×エレクトロニクス=クロス()効果
Solid State Fuel Cells : Cross correlation between ionic and electronic fluxes

次世代型燃料電池を考案し水素社会の実現に貢献したい 応用化学部門 界面電子化学研究室 准教授 青木 芳尚

[PROFILE]
○研究分野/固体イオニクス、電気化学
○研究テーマ/クロス効果、イオニクスデバイス
○研究室ホームページ
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/elechem/

Yoshitaka Aoki : Associate Professor
Laboratory of Interfacial Electrochemistry
Division of Applied Chemistry
○Research field : Solid State Ionics, Electrochemistry
○Research theme : Cross effect, Ionic device
○Laboratory HP :
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/elechem/index-en.html

発電効率が高い
固体燃料電池の課題

 固体燃料電池は水素などの燃料と酸素を反応させて電気を作る装置です。リチウム電池に比べると出力密度が非常に高く、従来の熱機関の発電効率が最大でも30%程度であるのに対して、固体燃料電池は60%に達するものもあります。燃料電池は大きく分けて3つの構造に分かれています。水素がプロトン(H+)と電子(e-)に分かれる「燃料極(アノード)」と、電子は通さないがプロトンのみを通す「電解質」、そして外部回路を経て到着した電子と空気中の酸素およびプロトンを反応させて水を生成する「空気極(カソード)」に分かれています(図1)。これらが全てセラミックスでできています。
 燃料電池が発電する場合、内部を常にイオンが動き回っており、このイオンをどれだけ楽に動かすかということが、燃料電池の高効率化の鍵を握っています。燃料極や空気極となる材料は、電子もイオンもよく動かす材料という視点から研究が行われてきましたが、一方、電解質の材料についてはイオンのみをよく通す新たな電解質材料を見つけるという事が、悩みの種でした。

図1 図1 セラミックス燃料電池における発電の仕組み Figure1:Principle of power generation in solid state feul cells.

イオンと電子を制御する
「クロス効果」に世界が注目

 固体中の電子には負の電荷をもつ電子(e-)と、正の電荷をもつホール(H+)があり、電子を優先的に伝導する半導体をn型、ホール優先の半導体をp型と呼びます。このn型半導体とp型半導体を接合すると、一方向のみにしか電気が流れない整流作用という不思議な現象が見られます。そこで我々はこの性質を利用し、p型とn型のプロトン伝導体を接合した「pnヘテロ接合燃料電池」(図2)を考案しました。従来のプロトンのみを輸送する電解質をやめて、プロトンも電子(又はホール)もよく動かす2種類の混合伝導材料を直接くっつけた形になります。これにより従来の燃料電池より2倍近い出力密度を達成できました。これまでp型のプロトン/ホール混合伝導体は知られていましたが、我々はこのp型混合伝導体の一部をn型に変換する方法を見出し、これを実現しました。
 現在、世界の研究者がpnヘテロ構造燃料電池に着目しており、イオニクスとエレクトロニクスの相互作用、通称「クロス効果」の研究はいま“沸騰前夜”の状態です。若い研究者の活躍もおおいに期待されています。

図2 図2 pnヘテロ接合燃料電池 Figure2:Schematic representation of pn-junction fuel cells.

technical term
ホール 正孔。固体の結晶構造の中の電子が欠落した状態で、あたかも正の電荷を持った電子のようにふるまう。